観光客にマリンアクティビティを売る

【三木】はい。どうしていいかわからずに、とりあえずパトンビーチという有名なビーチまで歩いて行きました。そこで途方に暮れていたら、パラセーリングやジェットスキーといったマリンアクティビティを勧めるビーチボーイが声をかけてきました。もちろん無一文なので何もできません。断っているうちにひらめいたのが、逆に僕が彼らを手伝って観光客にマリンアクティビティを売ること。それで手数料をもらえれば、とりあえず急場はしのげると考えました。

田原総一朗●1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所入社。テレビ東京を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。著書に『起業家のように考える。』ほか。

【田原】普通は強盗に遭ったら警察に駆け込むか、日本人に事情を話してお金を貸してもらうよ。自分で稼ごうという発想はなかなか出てこない。

【三木】なんていうか、何もないところから自分でつくり出すのが好きなんですよね。

【田原】実際それはうまくいったの?

【三木】はい。ホテルやビーチを歩いている日本人に声をかけてマリンアクティビティの会社に送客しました。日本人観光客は、タイ人より日本人である僕に声をかけられたほうが安心だったようです。「じつはいま無一文で困ってる」と本当のことを明かしたのもよかったのかもしれません。何組か送客したらアクティビティ会社のオーナーにも信用してもらえて、その日のねぐらも確保できました。

【田原】警察には行かなかったの?

【三木】行きました。だいたい2カ月後ですが。

【田原】どうしてすぐ行かなかったの?

【三木】じつは盗まれたキャリーバッグに160万円近く入っていました。僕としては、それをプーケットでのビジネスで取り返すというか、何か次につなげたいという思いがあって、警察に届けるのは後回しにしました。

【田原】その感覚がよくわからないな。そもそもビジネスといっても、観光客の送客じゃたいしたことないでしょ?

【三木】プーケットにはおもしろい遊びがたくさんあります。映画『ザ・ビーチ』のロケ地になったピピ島のアイランドホッピングなんて、本当にきれいですばらしい。でも、観光客の多くはピピ島を知らないか、知っていても行き方や遊び方を知らなかったんです。そこでアクティビティ会社と話して一緒にツアーを企画したりしました。日本にいたころはITをかじっていたので、ウェブページをつくってあげたりも。2カ月で月100万円くらい稼いだんじゃないかな。

【田原】日本にはいつ帰国したの?

【三木】2カ月後です。パスポートが再発行されたので。

【田原】日本に戻って何を?