実際、早くに嫁に行った主婦の友達なんかだと、自分の親2人と旦那の親2人、合計4人を看なきゃいけないケースだってあります。「なるほど、これは長期戦で考えなければ途中で息が切れてしまう、1人で頑張るのはやめよう。助けを借りながら、母の世話をしていこう」と思うようになりました。
「では、うちはどうしようか」ということで話し合っていたところ、以前に我が家で、住み込みでお手伝いをしてくれていた「まみちゃん」という女性が状況を察してくれて、「何かお手伝いできることがあればやりますからね」と絶妙のタイミングで声をかけてくださったんです。こちらとしては渡りに船!「週1回でも2回でもいいですから、手伝ってください、どうか助けてください」と頭を下げました。まみちゃんは何よりも信頼できましたし、すでにご自身に介護の経験があったので頼りになります。
また、デイサービスを利用してみると、母もストレスが解消できますし、私たちもその時間、リフレッシュできるので一石二鳥でした。そうやって周囲の人やプロの手も借り、週末は兄弟でローテーションを組んで自分たちで世話をすることにしました。
北杜夫さんの奥様からの助言
入院中の父は、本当は「家に帰りたい、母と一緒にいたい」という気持ちがあったように思います。入院後「俺は母さんと別々に死ぬのか」とつぶやいたり、母が見舞いに来ると「おまえもここに入れ」といったりしましたから。ただし、父は現実的な側面も持ち合わせていたので、母が1人で自分の世話をするのは無理だということも承知していました。それに、ここでは24時間体制で看護師さんたちが丁寧にケアしてくれることも理解していました。
もちろんよいことばかりではありません。仕事中に突然父から電話がかかってきて、何事かと思って慌てて出ると「いまからチーズを持ってきてくれ」と催促されたり、「いや、いま、仕事で」というと「何時に終わるんだ」と食い下がるので、「まだ仕事があるから夜の8時を過ぎる」と返すと「じゃあ今夜、俺は何を食えばいいんだ」と怒りだす。ほかにも「あれを持ってこい、これを持ってこい」や「酒がないから持ってこい」などといいたい放題。こちらもなるべく要望に応えようとするんですが、しまいには「ちょっと待ってくださいよ!」とキンキンしたりしました。
父のことでは「どうすりゃいいんだ」と思うことが多々ありましたが、昔、作家の北杜夫さんの奥様から伺った話を思い出しました。子どもが生まれてしばらくすると、北さんは躁うつ病になってしまいます。穏やかだった北さんが急に「出ていけ」と怒鳴ったり、躁状態になると株の売買を始めたりして、周囲を翻弄させたそうです。さすがに奥様も「私の人生はどうなってしまうのだろう」と途方に暮れました。