臨時取締役会の延期は「戦術」
岩田氏を解任したきっかけは、2019年1月にロハコ事業をヤフーに譲渡するよう求めたことに、岩田氏や独立社外取締役が反対したことだったとされる。ヤフーはその後、ロハコ事業の分離は考えていないと公表しているが、だからこそ、アスクル全体を「乗っ取り」にかかったのだろう。
だが、総会後の取締役会には独立社外取締役がひとりもいないため、重要な事業の譲渡など、アスクルの少数株主の利害に関する決定をするのは難しい。ガバナンス・コードや実務指針などへのルール違反を解消するためにも、早急に臨時株主総会を開いて独立社外取締役を選任せざるを得ないだろう。
当然、クビにした独立社外取締役よりも、独立性が高い人たちを人選しなければならない。マスコミなど世間が注目する中での臨時総会になるだけに、思い通りに動いてくれる人材を据えるというのは簡単ではない。
総会を目前に控えた7月31日、アスクルは翌日に開くとしていた臨時取締役会を延期すると発表した。臨時取締役会では、「業務・資本提携契約」に基づいて、ヤフーが持つアスクル株式の買い戻し請求権を行使するかどうか審議することになっていた。それを急遽取りやめたことで、アスクルが完全に白旗を上げたようにも見えるが、実はアスクルの顧問弁護士である中村直人氏の「戦術」だという。
時間をかけても「交渉」で独立を求め続ける
買い戻し請求を行えば、ヤフーに契約を破棄させる口実を与えることになるが、その契約がなければアスクルの独立性を守ることが難しくなる。あくまで、契約に則った独立性維持を求め続けていくというわけだ。時間はかかっても交渉でヤフーからの独立を求めていくという。
ヤフーがアスクルを意のままに動かし、例えばロハコ事業のヤフーへの譲渡などを求めていくには、総会で選ばれた3人の社内取締役のうち、最低1人を「ヤフー派」に寝返らせることが必要になる。実際、岩田氏の解任を決める前後、ヤフー側はアスクルの取締役や執行役員たちと面談し、「懐柔」を試みてきた、と複数の役員は語る。
吉田仁・BtoB事業COO(最高執行責任者)、吉岡昭・BtoC事業COO、木村美代子・チーフマーケティングオフィサーの3人の社内取締役は総会直前までは「一枚岩」だといい、すでに岩田社長抜きで中村弁護士と総会後の対応を詰めている、とされる。
総会後もヤフーは表面上、アスクルの独立性や少数株主の利益保持を表明せざるを得ない。一方で、取締役会などでは、資本の論理を背景に、硬軟両様、社内取締役3人に言うことを聞かせようとするだろう。「彼ら3人もアスクルの独立性を守るために精一杯頑張ってくれると思います」と社長を追われる岩田氏はすがすがしい表情で語る。
株主総会で「勝利」を収めたかにみえるヤフーだが、アスクル側社内取締役が一枚岩であり続けるとすれば、騒動はそう簡単には終息しないということになる。