独立性の維持を定めた「契約」がある

東証一部上場のオフィス用品通販大手「アスクル」と、株式の約45%を握る親会社のポータルサイト運営大手「ヤフー」の対立が正念場を迎えようとしている。

アスクルは8月2日午前10時から東京都内で株主総会を開く。ヤフーと同じくアスクルの株式の約11%を持つ事務用品大手の「プラス」は、10人の取締役候補のうち、岩田彰一郎社長と独立社外取締役3人に反対票を投じたと発表しており、総会では3人の「社内」取締役と、ヤフー出身者ら3人の「ヤフー派」取締役という構成になる。

ヤフー側が資本の力でアスクルの経営権を奪取し、アスクル側の敗北が決定したように見えるが、そう簡単に事態が収束するわけではない。対立は「長期戦」になる見通しだ。

写真=時事通信フォト
2019年07月18日、ヤフーから退陣を求められた問題について、記者会見するアスクルの岩田彰一郎社長

というのも、強権発動したヤフー側にはいくつかの弱点がある。

アスクルとヤフーの間には、アスクルの独立性を維持することを定めた「業務・資本提携契約」が存在する。ヤフーから送り込める取締役の人数を2人までに限っているほか、持ち株比率を45%からさらに引き上げることを禁じた条項もある。

資本の力で経営権を奪取するならば、TOB(株式公開買い付け)で過半数を取ったり、取締役会の過半数を押さえたりするのが常道だが、それをヤフーがやらないのは、この契約が存在しているためだ。

独立社外取締役3人までクビにする

たとえばアスクルの岩田氏がメディアのインタビューで、「プラスの今泉公二社長はヤフーと共同歩調を取っている」と答えた際、ヤフー側はリリースを出して強く反発した。ヤフーとプラスが実質的な「共同保有者」ということになれば、業務・資本提携契約に違反する可能性があり、市場で売却しなければならなくなるからだ。契約違反にならないよう、ヤフーとしては表面上、アスクルの独立性を尊重し続けなければならないわけだ。

もうひとつ、ヤフー側の弱点は、上場子会社の少数株主保護を定めた東証のコーポレートガバナンス・コードや、経済産業省の「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」に完全に違反してしまうことだ。

ヤフーは岩田社長への反対投票と同時に、3人いる独立社外取締役にも反対票を投じている。3人とは、松下電器産業(現・パナソニック)で副社長を務めた戸田一雄氏と、東京大学名誉教授の宮田秀明氏、そして日本取引所グループ(JPX)CEO(最高経営責任者)だった斉藤惇氏である。

上場子会社の場合、親会社と子会社の間で利益相反が起きることが予想されるため、大株主ではない少数株主の利益を守る立場として中立的な独立社外取締役の存在が求められる。それを「岩田社長を任命した責任など総合的な判断」だとして、クビにしてしまったのだ。