「資本の力」だけで押し切ることはできない

これにはさすがの証券取引所も黙っていられなくなる。

7月30日には、JPXで斉藤氏の後任CEOである清田瞭氏が定例記者会見に臨み、そこで苦言を呈する。

「総会の直前になって議決権行使を行い、それによって子会社の安全装置とも言われる独立社外取締役の解任にまで至った」ことに対して「懸念」を表明したのだ。

さらに有識者からも問題視する声が上がった。

日本取締役協会(宮内義彦会長)は同じく7月30日に、「日本の上場子会社のコーポレートガバナンスの在り方」という緊急意見を公表。次のように厳しくヤフーを叱責した。

「アスクルの社長候補の取締役を不再任にしただけでなく、同じ理由で、独立社外取締役まで全員不再任としたのは、親子上場企業のガバナンス上、重大な問題である。支配的株主の横暴をけん制するために存在している、独立取締役を緊急性も違法行為もない状態で解任できるならば、ガバナンスの基本構造が成り立たなくなる」

そのうえで、こう指摘する。

「グループガイドラインの主旨に明確に反し、独立取締役がゼロになった状況は、金融庁・東証のコーポレートガバナンス・コード上も、会社法上も立法趣旨としては大きな問題状況を生み出している」

そうした批判があがる中で、証券市場のルールを無視して、資本の力だけで押し切ることは、さすがのヤフーもできない。

結局はアスクルの社内役員を社長に据えることになる

独立取締役までクビにしたのは、ヤフーとしては「失策」だったとみられるが、やむにやまれぬ事情があったと推測される。総会後の取締役会が「社内」3人、「ヤフー派」3人、「独立社外取締役」3人となった場合、社内と独立社外取締役が一致すれば、これまでと状況は変わらない可能性が高かった。実際、岩田氏を執行役員などとして残すことも検討されていたようだ。3対3になれば、社内取締役は「親会社」の意のままに動くとヤフーは期待しているのだろう。

だが、そう簡単ではない。というのも「親会社・子会社」といっても、ヤフーとアスクルはこれまで別会社と言ってもいいほど、お互いに独立性を尊重する関係だった。

2012年から始めた一般向け通販サイト「LOHACO(ロハコ)」は共同事業という位置づけだが、配送を行う物流業務やメーカーとの共同製品開発業務などはアスクルが長年培ってきた独自のものだ。ヤフーからアスクルに出向している幹部社員は数人しかいない。

ヤフーが取締役会の過半を押さえても、会社全体を意のままに動かせるわけではない。株主総会で社内役員を社長に据え、その指示の下で運営していくしか手はないのだ。