ヴェネツィアもアムステルダムも規制を始めた

【清野】その実態は、ヴェネツィアでも問題視されましたね。

【カー】ヴェネツィアでも一時、大型クルーズ船の寄港による観光過剰が起こりました。そこで、ヴェネツィア市が計算したところ、水、光熱インフラをはじめ、市がクルーズ船に与える公共的サービスのコストの方が、寄港から得られるお金より上回っていることが分かりました。同市では14年から大型クルーズ船の就航を厳しく規制しています。

【清野】ヴェネツィアだけではありません。『観光亡国論』にも書いたように、アムステルダムでも大型クルーズ船の寄港地を、旧市街から郊外に移して、市街地への悪影響を抑えるようにしています。古い町や小さな町に、一度に数千人の観光客が降りたつことは、経済が活性化するどころではなく、脅威なんですね。

【カー】ヴェネツィア市では、19年7月から市に上陸するすべての人に「訪問税」を課すことを決定しています。それまでクルーズ船は宿泊税をまぬかれてきましたが、今後は世界で「訪問税」「入島税」のような形が広がっていくでしょう。

「観光」を利用した安全保障上の綱引き

【清野】日本では寄港地の候補になると、足元で典型的な公共工事が発生するので、その点で推進したいと考える人が必ず出てきます。

また奄美大島の場合、背後に日本の対中国安全保障上の綱引きがあるのかもしれません。日本は観光誘致を名目に、自衛隊の拠点を奄美大島に建設したい。一方、中国側には、観光クルーズをきっかけに、軍事海域の要衝となる奄美大島を実質支配したいという思惑がある。それなのに日本政府がいきなり「奄美に軍事施設を作る」といい出せば国民的、あるいは国際的な反発が必至です。そこで観光誘致を謳った大型港湾の建設計画を進める、というのです。

【カー】その件に関しては、観光とは完全に別の議題として、軍事なら軍事のスジで話すべきでしょう。観光が現地にもたらすメリット・デメリットと、軍事施設のそれにかかわる議論は、論点がまったく変わるはずですから。

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