観光客のお金は「別の土地」に流れていく
【カー】それでも欧米の観光先進地では、DMO(観光地域作りにおいて、戦略策定やマーケティング、マネージメントを一体的に行う組織体)による観光振興が、その地域の特性を生かした開発の中心になっています。しかし、奄美大島で進められようとしている大型クルーズ観光船のビジネスモデルから、その理念は見えてきません。
そもそも大人数を1カ所に集め、買い物をさせて利益を上げることが主眼で、観光は買い物のプラス・アルファぐらいのもの。しかも人々が買い物で消費したお金は、ショッピングセンターの運営業者を経由して、別の土地や国に流れていきます。
【清野】近ごろ、タイやバリ島で大問題となっている「ゼロドルツアー(zero-dollar tourism)」のような構図ですね。
【カー】まさしくそうです。ゼロドルツアーは、この数年、特にタイを中心とした東南アジアに蔓延している悪質な観光スキームです。このゼロドルツアーこそは、もう一つの大きな「観光亡国」的な話題ですね。
タイを旅行しているのにお金は中国に流れる
【清野】ゼロドルツアーの仕組みを簡単に説明しますと、たとえば中国の旅行業者が、タダもしくはタダに近い激安料金のツアーを組んで、お客を大量にタイやバリ島に送り込みます。
現地では、ほぼ強制的に宝石店などでの買い物が組み込まれ、お客はそこで町の相場とはかけ離れた、高い買い物をさせられます。
宿泊は中国資本のホテルで、ガイドは中国人、バスも中国の業者と提携している会社、店の経営者も、もちろん中国人。それら事業者の売り上げは、ほとんど現地に落ちることなく、中国に流れるようになっています。とりわけ最近は、買い物には「WeChat Pay(ウィチャットペイ)」「Alipay(アリペイ)」という中国の携帯電話経由の決済システムを使いますから、お金は直接中国に入って、現地の税金逃れにもなるし、マネーロンダリングにもつながっていきます。
【カー】16年にタイ政府が調査したところ、このようなゼロドルツアーが毎年約20億ドル(2200億円)の損失をタイ経済に与えているという結果が出ています。16年から18年にかけて、タイとベトナムは対策を打ち出して、観光業界、ホテル業界、税務署などの取り締まりを強化していますが、なかなか効果は表れていません。
【清野】観光の悪用ですね。