自動翻訳機を使っても相手とは仲良くなれない

統計家の西内啓氏

【三宅】AIによる自動翻訳についてはどのような見解をお持ちですか?

【西内】これも結局は同じ話で、機能的なコミュニケーションと感情的なコミュニケーションを分けて考えるべきだと思います。それを一緒にして「AIがあるから英語は要らない」とするのは少し短絡的な発想のように感じます。

海外旅行で料理を注文したり、街中の人に道を聞いたりするのはすでにスマホでできます。それに海外企業と取引をまとめる、仕様を詰める、契約内容を確認するといった話も、テレビ会議システムの中に自動翻訳機能を実装するだけで言語の壁は解消できるでしょう。

でも、相手と仲良くなれるかという話になると、やはり機械を介在して話すときと直接話すときでは心の距離がまったく異なりますよ。臨場感やタイムラグ、読み上げの自然さといった技術的な課題がクリアされたとしても、です。

それは特に留学中に実感したことで、当時の僕は本当に英会話が苦手で、機能的なやり取りはかろうじてできても、感情的なやりとりをして相手と仲良くなるところまでいくには、もっと英語がうまくならないといけないということを痛感しました。仕事でも取引先や同僚と仲良くなれるかどうかというのは、すごく大事なことですからね。

【三宅】ただ、たどたどしい英語であっても、直接コミュニケーションを取ろうという姿勢が評価される側面もありますよね。

【西内】そういう側面もありますよね。

成長したことが実感できれば、英語学習は楽しくなる

【三宅】西内さんのご専門はデータ分析ですので、教育効果の数値化についてお聞きしたいと思います。語学学習は上達が実感しづらい特徴がありまして、周囲から見ると明らかに上達しているのに本人が実感できずモチベーションが下がることがよくあります。何かいい方法はありますか?

【西内】たしかに英会話や楽器演奏のような「練習系」の領域になると、じわりじわり上達していくので実感するのは難しいでしょう。プレゼンなども「一発勝負の仕事」であり、練習が必要なわけですが、部下や学生のプレゼンをトレーニングする際には必ずマメに自分の動画を撮るようにお願いしています。とくに、きちんとした練習をはじめる前の、一番ダメな状態を動画で撮っておくとよいですね。

当然、最初のうちは見返すのも恥ずかしいシロモノですが、ある程度練習を積んだ後に見返すと練習の成果がはっきりわかりますし、それが大きな自信や「もっと練習しよう」というモチベーションにつながるのですね。

だからイーオンさんでも最初の授業を録音しておくとか、どうですか?

【三宅】それは素晴らしいアイデアですね。大事なことは自分がどれだけ成長したかですからね。