※本稿は、上田紀行『愛する意味』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
結婚を遠ざける「ロマンティック・ラブ・イデオロギー」
そもそも日本というのは、愛や自由を基軸に組み上げられている文化ではなく、かつては結婚も地縁・血縁で見合いをして行われてきました。恋愛結婚が増えたのはごく最近だと言えます。
そこで、近代に出てきた恋愛と結婚とセックスを強く結びつける考え方を「ロマンティック・ラブ・イデオロギー」と言います。男女の精神的・人格的結びつきが強調されることから、不倫は当然否定されますし、子孫を絶やさないためにお妾さんをおくというような考え方も、今の日本には完全になくなっています。
実際にはどうでしょう。恋愛結婚は、ワクワクできる素敵なことなはずですが、みんながそれを謳歌しているというわけでもないようです。
恋愛結婚がスタンダードになるにつれて、結婚する人は減っています。30年前の統計では、男性の平均初婚年齢が27.8歳、女性は25.2歳でしたが、2010年には男性は30.5歳、女性は28.8歳と、一世代で晩婚化は3年もすすんでいるのです。
その一方で離婚率はと言うと、2000年代に入ってからは3組に1組が離婚する時代です。生涯未婚率も増えているので、結果的にロマンティック・ラブ・イデオロギーは、現代人を結婚から遠ざけていると言えるのかもしれません。
愛が最高潮に達するタイミングで行う結婚式
これについて思い当たるフシで言うと、恋愛結婚で情熱がマックスになるのは結婚式及び披露宴であるわけです。出会って愛情関係をむすび、互いの愛のエネルギーがどんどん高まっていって100%のフルチャージに近づいていく実感を得て、「この人となら」と、結婚するという大英断ができる。恋愛結婚によくない点があると思うのは、まさにこの部分です。
チャペルや神前式、人前式で愛を誓い、披露宴で2人の誕生から出会いを描いたビデオを流し、両親への花束贈呈をして、新婚旅行でリゾート地のスイートルームに泊まり、結婚生活が非日常的な物語のクライマックスから始まるのです。
愛のエネルギーがハイパーインフレと化していたからこそ、これだけの大事業を乗り越えられるのかもしれません。しかし本来ならば、そこから始まる結婚生活こそが人生の彩りなのですから、エネルギーを使いきってバブル崩壊をおこしてしまうのはどうかということなのです。
それもこれも近代に入って日本では、「結婚式は結婚の閾値である」と思われてきたのではないでしょうか。つまり、地味でも派手でも、結婚というのは何らかの神聖なイベントをしないと始まらないと思っているのです。
実際には結婚や結婚式というのは時代によってまったく違うもので、特に「神に誓う」というかたちはむしろここ数十年の新しい流れです。