「通貨バスケット」で先を行くシンガポールの例

元に対する各通貨のレート

元に対する各通貨のレート

それは中国の国際収支が黒字であるために外国為替市場ですべての通貨に対して人民元の買い圧力が存在すること、そして、中国政府が世界最大の外貨準備残高を保有していて、それらを使い外国為替市場に介入して為替相場に影響を及ぼすことができることを前提とする。特に、後者の前提において、必ずしも外国為替市場の取引規模に相当するだけの十分な介入資金を有していなくても、中国人民銀行の介入に対して外国為替市場の市場参加者が反応すれば、十分である。すなわち、外国為替市場における人民元の買い圧力に対して、中国人民銀行が人民元の売り介入を減らして、人民元を米ドルやユーロに対して超過需要にすることによって人民元が米ドルやユーロに対して高くなることを市場参加者が予想し、市場参加者が人民元を買って、米ドルやユーロを売ると実際にドルやユーロに対して人民元高となる(このように通貨当局の行動の結果を市場参加者が信頼して、実際に市場参加者の行動の結果として為替相場が誘導される効果をクルーグマンは「蜜月効果」と呼ぶ)。

このように中国人民銀行が外国為替市場に影響を及ぼすことができることを前提として、中国人民銀行が米ドルとユーロの両方の外国為替市場(例えば、人民元/米ドルの外国為替市場に介入しながら、外貨準備残高の米ドルとユーロの構成比率を変えるために米ドル建て資産をユーロ建て資産と交換することを通じた米ドル/ユーロ外国為替市場への介入)に介入することで、人民元/米ドル為替相場と人民元/ユーロ為替相場の両方に影響を及ぼすことが可能である。

もし中国人民銀行が人民元/米ドルの外国為替市場にしか影響を及ぼすことができないならば、米ドル/ユーロ為替相場を見ながら、人民元/米ドルの外国為替市場への介入の程度を加減しながら、人民元/米ドル為替相場とともに人民元/ユーロ為替相場に影響を及ぼすことが可能となる。実際に、シンガポール通貨庁がこのような方法で通貨バスケットに対して自国通貨を安定化させる通貨バスケット制度を採用している。

いずれの方法を採るにせよ、中国人民銀行は人民元を米ドルとユーロ(さらには円)に対して切り上げることができる。このように通貨バスケット、すなわち、米ドルだけではなくユーロや円に対して人民元を切り上げていくことができる。そして、中国人民銀行は、05年7月21日に続いて、今回、再度発表した通貨バスケットを参照とした管理フロート制度の下での為替相場政策を実行することによって、中国国内の資産価格バブルを解消して、国内経済の安定を図ることが必要である。

(図版作成=平良 徹)