目を酷使するプロは、視力をどうやって維持しているのか。雑誌「プレジデント」(2019年7月19日号)の特集「眼医者、メガネ屋のナゾ」では、「目が命」のプロたち5人に話を聞いた。4人目は自衛官の高部正樹氏だ――。(第4回、全5回)
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見えるかどうかが、生死を分ける

私はかつて戦闘機パイロットとなるべく、航空自衛隊の飛行幹部候補生として2年間の飛行訓練を受け、その後傭兵(歩兵)として、アフガニスタンやクロアチアなどで戦いました。その経験から言えるのは、目の健康は命に関わるということです。

軍事評論家 高部正樹氏

たとえば戦闘機は通常の航空機よりもさらに飛行スピードが速く、場合よっては1000キロ近い速さになります。すると、数秒前にはケシ粒のように見えていた標的が、数秒後には目の前にあるという世界です。訓練中、どんなにそれが遠くても、他の飛行機を見つけたら同乗している教官に報告することになっているのですが、見つけられないと「見えていないのか!」と怒号が飛んできます。日本ではまずそんなことはありませんが、戦闘中であれば命取りです。

戦闘機のパイロットになるのは、小さい頃から私の夢でした。それで「ゼロ戦の撃墜王」と言われた坂井三郎さんの本を愛読していたのですが、彼が主張していたのが「パイロットはとにかく目が良くなくてはいけない」ということです。昔は高品質なレーダーもないので、今以上に裸眼視力が重要視されたのでしょう。彼の教えに倣って幼い私が実践していたのが、昼間の空を見て星を探すことです。残念ながら、実際に見えたことはありませんが、遠くのもの、緑のものを見るという習慣は、訓練生当時の1.5という視力を維持するのに役立ったと思っています。

それを実感したのが、アフガニスタンでの経験です。数キロ先まで何もない、目に良い環境で育ってきたアフガニスタンの人たちは、4.0、5.0という視力があったのでしょう。同じ隊の現地兵が、数キロ先を指して「あそこにヤギが3頭いる」と突然言い出すことがあるのです。ヤギであれば問題ありませんが、敵だったら死ぬかもしれない。見えるかどうかが生死を分けるのだと改めて感じました。