ある業界関係者はこう説明する。半世紀前、高度成長が始まった日本ではコーヒー消費量が一気に増えた。「需給バランスが崩れると、コーヒーは取り合いになる」ことを心配する声もある。例えばスターバックスはサスティナビリティ(持続可能性)の視点で、地域とも連携してコーヒー生産への取り組みを進めている。
「どんどん安く」では生産者に還元されない
中期的にはセルフカフェやコンビニのコーヒー価格が上昇するかもしれない。現在の日本のように「先進国で100円のコーヒーが飲める国はない」と言われるからだ。
日本は「小売業が強い」とも言われる。「メーカー希望小売価格は、あくまでもメーカーの希望する価格。消費者の求める価格ではない」と取材時に話す小売業者もいた。
正論のように思うが、小売りが唱える「いいものをどんどん安く」となるとどうだろう。「どんどん安くはあり得ない」という声も何度か聞いてきた。
サザコーヒーの創業者・鈴木誉志男(よしお)さん(太郎さんの父)は、こう主張する。
「『いいものをどんどん安く』は成り立ちません。例えばサザコーヒーが取引する中南米やアフリカのコーヒー農園は、手間や時間をかけて丁寧に栽培しています。当社がコロンビアで直営するサザ農園も栽培方法にこだわり、病虫害による3度の全滅も乗り越え改良を重ねてきました。良質のコーヒー豆は簡単にはできないのです」
真摯な取り組みの結果、高価格でコーヒーを売ることができれば、生産者に還元することもできる。「どんどん安く」では生産者に報いることは難しい。
史上最高値での落札にも「売れないから買って」
一方で、パナマゲイシャのような希少な豆では、“マネーゲーム”の様相にもなっている。近年のコーヒーオークションでは、パナマゲイシャを「史上最高値」で落札するケースが増えているのだ。太郎さんはこんな裏話を明かす。
「毎年、サザコーヒーは最高級の『パナマゲイシャ』をオークションで落札していますが、2017年度はわれわれの想定をはるかに超える1ポンド=601ドル(約6万5000円)で他社に落札されました。でも落札した中国人からは、『落札したけど、こんなに高い豆は売れない。鈴木さん買ってくれませんか』と泣きつかれました。豆の価値を正しく判断できない人も、オークションに参加するようになっているのです」
この件は、サザコーヒーが100ポンドのうち45ポンドを買い取るというかたちで解決したそうだ。