権力側は新聞記者たちが本気ではないことを知っていた
当時、ニューヨーク・タイムズとワシントン・ポストがベトナム戦争の報告書(ペンタゴン・ペーパーズ)を入手し掲載すると、ニクソン大統領が司法省に命じて、記事の差し止め命令を求める訴訟を連邦地方裁判所に起こした。
新聞と権力側が言論の自由を巡って連邦最高裁までいった。そこで政府側の要求は却下されたのである。その余波が日本の新聞にも伝わり、西山事件を言論の自由を守る闘いと位置付けたが、掛け声倒れに終わってしまった。
権力側は新聞記者たちが本気で言論の自由を守ろうとしていないことを、よく知っていたのである。それは今も変わらない。否、もっと本気度は薄くなっていると思う。
私は望月記者にインタビューしたことがあるが、そこで彼女はこう語っていた。
菅官房長官「会見は質問するところじゃない」
【望月】(菅官房長官に質問したこと=筆者注)こんなことで有名になること自体が恥ずかしい話ですよね。今は会見でどこの記者がどんな質問をしているのか、国民がチェックできるわけですが、そういう自覚は確かに私たちに、ちょっと足りなかったですね。
私自身が遅ればせながら入って行って、あれだけ反響があったということは、国民側が知りたいことを聞いてくれてないという不満を、そうとう持っていたから、私を「がんばれ」という人たちは、同時に「今まで何をやっていたんだ」と思っているのでしょう。
だから政治家にだってなめられますよ。モリカケ問題も、新聞は騒いでいるけど、自分の周辺の記者は言わないし、秘書官が苦言を呈することも、ほとんどないと思うので、(安倍首相=筆者注)本人もこれでいいと思っていたはずです。
【元木】望月さんは菅さんから「会見は質問するところじゃない」という発言を引き出しました。お前たち記者は、オレの言うことを聞いてりゃいいんだ、質問するんじゃない。これは重大な問題発言ですよ。
【望月】ここで聞かないでどこで聞けというんですかね(笑)。苦し紛れに墓穴を掘ったのだと思います。私がしつこく質問をするので、8月下旬に菅官房長官側から、菅番の担当記者に会見時間を短縮したいと言ってきたそうです。
それは突っぱねたようですが、「あと○人」「あと○問」と官邸の広報官が質問を打ち切るのをそのまま認めています。これはメディアの自殺行為ですよ。(『エルネオス』2018年1月号より)
このインタビューからだいぶ日がたつが、官邸の記者クラブも、菅官房長官の答え方も、何も変わってはいない。