マスコミはなぜマスゴミと呼ばれるのか
辛辣なマスコミ批判をしていた弁護士の日隅一雄は『マスコミはなぜマスゴミと呼ばれるのか』(現代人文社)の中でこう書いている。
ニューヨーク・タイムズのビル・ケラー編集主幹が読者に宛てた手紙を書いた。そこで、
「『大統領の言葉を常にその言葉どおりに受け取ったり、何を報道するかという決定を政府に委ねることが、賢く、愛国的だ、という考え方も排除した』――しびれませんか? こういうメディアならば、為政者の『自衛隊が活動する地域は非戦闘地域である』という有権者を馬鹿にするような発言を許すはずがない。
日本のメディアに同じような『宣言』をさせるためには、マスコミをマスゴミと呼んで批判することで満足するのではなく、マスゴミと呼ばないで済むような仕組みを設けることが必要だ。つまり、マスメディアに対する日本独自の規制を打破し、インターネットの世界に言論を封殺するような規制を持ち込まないようにしなければならない。それは実現不可能なことではない」
アメリカには大統領を主人公にした傑作がいくつもある
アメリカには、大統領を主人公にした映画やドラマの傑作がいくつもある。マイケル・ムーアは、『華氏119』で激烈なトランプ批判をやった。
オリバー・ストーンは『ブッシュ』で“史上最低”といわれるブッシュ元大統領を丸裸にした。最近でも、ブッシュ政権下で副大統領を務めたチェイニーを主人公にした『バイス』が話題になった。
『記者たち 衝撃と畏怖の真実』という映画は、「イラクのサダム・フセインは大量破壊兵器を保有している」という嘘をでっち上げ、イラクに侵攻したW・ブッシュ政権に、たった一つの新聞社が、地道な取材で、ブッシュの嘘を暴いていく「事実」を描いたものである。
9・11以降、大手メディアは、政権の流す嘘をチェックもせずに載せ続け、権力の暴走を押しとどめる機能を果たせなかった。だが「ナイト・リッダー」は、権力や大手新聞社の嫌がらせや脅迫にも負けず、真実を伝え続けた。これこそ本物の記者魂である。
これだけはいっておきたい。『新聞記者』の観客は圧倒的に中高年が多いようだが、若い人こそ、観てほしい映画である。
この『新聞記者』がきっかけで、権力の本当の怖さや国民を欺く汚い手口を描くポリティカル・ムービーがもっと出てきてほしいと思う。(文中敬称略)
ジャーナリスト
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任する。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『編集者の教室』(徳間書店)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)などがある。