都合の悪い質問は、無視する、答えない

私は、この国にはいいっ放しの自由はあるが、真の言論・表現の自由は極めて限られていると考えている。SNSで、相手を誹謗中傷するような暴言を吐いても、そこまでなら、バカな奴だと思われるだけである。

だが、テレビで、安倍政権の年金問題や憲法改正の考え方には反対だとでもいえば、明日からテレビには出られなくなる。

朝日新聞が森友学園問題でスクープを放っても、政権側は説明責任も果たさず、「フェイクニュース」だと切り捨てる。他紙は、後追いもせず、ただ沈黙するか、政権側に立って、朝日を批判するという愚に出る。

©2019『新聞記者』フィルムパートナーズ

安倍政権になって、言論・報道の自由度はさらに狭められている。国民に寄り添うといいながら、都合の悪い質問は、無視する、答えない、話を違う方向にねじ曲げてしまう。これほど、国民をばかにした政権を、私は知らない。

国際NGO「国境なき記者団」が発表した2019年の「報道の自由度ランキング」で、調査対象180カ国・地域のうちで日本は67位だった。トランプのアメリカでも48位なのに。

「沖縄密約」の真相究明が腰砕けになった理由

新聞が権力に敗れた「西山事件」を覚えておいでだろうか。1971年、第3次佐藤栄作政権の時、毎日新聞の西山太吉記者が、沖縄返還交渉の過程で、アメリカと日本が結んだ「密約公電」があるとスクープした。

佐藤は密約を否定し、密かに、西山記者が外務省女性事務官から「情を通じて」情報をとったと、他のメディアにリークした。それが週刊誌などで書きたてられ、西山記者は国家公務員法違反の罪で逮捕されてしまうのである。

結局、密約の内容についての真相究明は行われず、取材活動の正当性や報道の自由を掲げて政府を追及していた新聞は腰砕けになり、西山記者は毎日新聞を退社する。

後日、新聞は、週刊誌が男女問題を大げさに書きたてたために、世論が倫理批判に傾き、闘うことができなかったなどと寝ぼけたことをいっているが、そうではない。新聞を含めて、すべてのメディアに「言論の自由を死守する」という覚悟がなかったからである。