「できることは何でもやる」という明確な規定を

だがそこで忘れてならないのは、日本と米国が21世紀に入ってから、日米同盟を「世界の中の」日米同盟に発展させようしていることである。そして近年は「自由で開かれたインド太平洋」構想を掲げるなど、同盟協力の範囲を大きく広げようとしている。

そうなると、安保条約は不公平だという批判への反論が少し難しくなる。米国の領土がそこに存在しない「極東」における同盟協力ではなく、それが存在する「世界」あるいは「インド太平洋」での協力となれば、日本が米国の領土防衛を約束していない、安保条約の義務の非対称性が目立ってしまうからである。

結局のところ、トランプ大統領の「不公平」発言が示すのは、日米同盟を真の意味で「極東」における同盟から「世界」における同盟に発展させようと思えば、米国の領土防衛義務を形式的に負わない、いまの安保条約のかたちには限界があるということなのだろう。

だから改めた方がいいのかどうか、また改めるとしてどう改めるのかは、相手の意向もあり、さまざまな検討や議論が必要になる。ただ私はともかくまず、いざ米国有事となったら、日本は米国を守るために、憲法上また実力上、できることは何でもやる。そのことを明確に約束する規定を含んだ、安保条約再改定の試案を準備しておくのがよいのではないかと考える。

坂元 一哉(さかもと・かずや)
大阪大学 教授
1956年福岡県生まれ。京都大学法学部卒業。同大学院を経て米オハイオ大学に留学。三重大学、大阪大学助教授を経て現職。吉田茂賞(『戦後日本外交史』)、サントリー学芸賞(『日米同盟の絆』)、第9回正論新風賞を受賞。法学博士。
(写真=時事通信フォト)
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