出版業界の成功事例となった

事程左様に、「神代」「大東亜戦争期」「戦後混乱期」の三つの時代・時期にしか興味を示さないネット右翼に対して、これまで出版業界は、この三つの時代・時期に即応した書籍を、いたずらに集中・乱打することによって、ネット右翼の欲求を穴埋めしてきた。事実これは「そこそこ」商業的に成功してきた。

しかし「日本史の通史(自称)」という長いスパンでの俯瞰本は、『日本国紀』がほぼはじめてである。古代から近世をふくむ長い期間で、百田にとって都合の良い記述を野放図に書きなぐった『日本国紀』は、これまで上記三つの時代・時期に的を絞って書籍を刊行してきた出版業界にとってはまさに台風の目であり、灯台下暗しともいえる成功事例であった。

日本国紀』の感想・レビューを見ても、「日本ってやっぱりすごいんだと思いました!」もしくは「日本人に生まれてよかったと思います!」という2系統ばかりである。ネット右翼は、「日本通史(自称)」に対して論評するだけの体系的な日本史知識を持たないから、このような反応しかできないのである。彼らの日本史知識が、穴だらけの虫食い状で、どれだけ修復不可能なものであるかを物語っている。

どんなに百田の個人的趣向に偏った歴史観であっても、虫食い状の知識しか持たず、これまで「通史」に触れることのなかったネット右翼に喝采を持って迎えられるのは、考えてみればおかしなことではない。

おそらく、『日本国紀』の商業的成功を奇貨として、また別の右派系論客が、ウィキペディアで探索した程度、つまり高校3年生~(歴史学科以外の)大学1年生程度の教養水準を対象とした「日本通史」を書くものと推測されるが、それらは児戯に等しいものとなるであろうことを今から予言しておく。

古谷 経衡(ふるや・つねひら)
文筆家
1982年生まれ。保守派論客として各紙誌に寄稿する他、テレビ・ラジオなどでもコメンテーターを務める。2012年に竹島上陸。自身初の小説『愛国奴』(駒草出版)が話題。他の著書に『女政治家の通信簿』(小学館)、『日本を蝕む「極論」の正体』(新潮社)、『「道徳自警団」がニッポンを滅ぼす』(イースト・プレス)他多数。近著に『日本型リア充の研究』(自由国民社)。
(写真=アフロ)
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