コンビニ、書店、セレクトショップ――。オンラインの「売れ筋」データを武器に、アマゾンがリアル店舗を次々に出店している。深刻な人手不足に悩まされる日本でも、リアル店舗の新業態に注目が集まっている。人件費の圧縮を狙ったキャッシュレス化、ITの導入による業務効率化、ネットショッピングとの共存共栄……。それらのヒントを探るべく、マーケティングアナリストの原田曜平さんが海外で視察した未来型店舗を紹介する。(前編、全2回)

QRコードをかざして入店するだけ

米国、中国、欧州と、未来型店舗の海外視察を行いました。一貫していたキーワードは「ニューリテール(新しい小売り)」でした。実はこの言葉、中国ECサイト最大手・アリババ集団のジャック・マー会長が提唱したものです。ITによる膨大なデータ解析を駆使してネット通販と実店舗の融合を図る、高効率な次世代型小売り形態のこと。Amazonのリアル店舗も、言ってみれば「米国版ニューリテール」と呼ぶべきものでした。

サンフランシスコにあるAmazon Goの575 Market店。

Amazonの未来型店舗と言って最初に思い浮かぶのが、“世界最先端のコンビニ”こと、「Amazon Go(アマゾン・ゴー)」です。2016年12月にAmazon社内で社員限定利用店としてオープンし、2018年1月に一般公開。2019年5月1日現在、シカゴ、ニューヨーク、シアトル、サンフランシスコなどで11店舗を展開しています。

Amazon Goの最大の特徴は、完全キャッシュレスによるウォークスルー決済です。スマホに専用アプリをダウンロードし、ゲートにQRコードをかざして入店ゲートより入店。あとは商品を手に取って退店ゲートから退店するだけで、決済が完了します。商品にRFタグなどは一切ついていません。なぜ、そんなことが可能なのでしょうか。

右2レーンが入店ゲート、左2つが退店ゲート。

実は、天井に設置された大量のカメラで来店客の動作を、商品棚のセンサーで商品の移動をそれぞれ補足し、入店時に認識した来店客のアカウントと照合しているからです。なので、商品をいくらポケットに隠そうとも、万引きはできません。

(左)天井にあるカメラ。(右)棚にあるセンサー。