「たとえば、アポを取っておいた訪問日時にしっかり対応する、要望していた決算や試算表などの資料をきちんと揃えて提出するといった、小さな約束事を一つひとつ、確実に履行できるかどうかを、金融機関の担当者は厳しくチェックしています。なぜなら、どんな小さな約束であってもきちんと守ってくれる経営者ならば、融資した場合でも期日までに確実に返済してもらえるだろうと、期待ができるからです」(平野さん)

反対に、小さな約束をおろそかにしてしまう社長だと信用されず、融資も受けにくい。平野さんが自身の経験を明かす。

「山の奥にある会社だったのですが、支店長を連れて行き、社長と面談するアポを取っておいたのに、行ってみたら社長が外出していて留守でした。受付の女性社員は平謝りでしたが、忙しいなか時間をさいてきた面談をすっぽかされた支店長はカンカンでした。その会社は結局、廃業したらしく、今はありません」

融資したくなる社長の共通点

まさに「信用は資本なり」なのだ。そして、その信用は約束を履行していくことによって得られるものなのである。一方、金融機関の担当者が融資したくなる社長の共通点としては、「事業への熱い思い」があげられると平野さんは指摘する。

「私は、町工場が多いエリアを担当したことがあります。融資先として開拓したメーカーのオーナー社長は、大半が技術者出身で自社の製品のことになると、目を輝かせて、夢中になって説明するタイプが多かったですね。口達者な人ばかりではないんですが、仕事に裏打ちされた話なので、言葉に重みがあって心を打つんです。そういうタイプの社長は仕事熱心で、会社も成長するケースが多いのです」

平野さんの印象に強く残っているのは、あるプラスチック成形加工メーカーの当時70代だった社長で、「国際情勢の変化を踏まえた将来の経営ビジョンについて、よく話をしてくれました。勉強熱心で、とても視野の広い経営者でした。また、私が話すことにも真摯に耳を傾けて、その内容もよく覚えていてくれて、ご自身の意見もいただきました」と振り返る。

その一方で最近、融資をためらったケースとして、思わず人間性を疑ってしまうような、こんなとんでもない経営者がいたそうだ。

「一流大学出身の優秀な社長なのですが、それをひけらかして、『だから、信用できるだろう』という態度を取り、こちらの出身大学まで尋ねてきます。さらに『うちも人材難で困っている。高卒ばかりで、使えないのが多いんだよね』などと、社員の前で聞こえよがしにいいます。これでは人望を失うばかりで、社員の定着率は悪くなる一方でしょう。当然、経営の先行きが危ぶまれ、融資は難しくなります」