「創業間もないベンチャー企業は、売上高や資産などの定量データも少なくて、将来の判断が難しい。10年後のキャピタルゲインを狙うのであれば、企業の将来性に賭ける部分が大きくなります。チェックすべき項目がすべて揃う会社はあまりなく、定量データは誰が見ても大きく判断は変わらず、定性的なものの影響が大きいでしょう」

担当者の心を射た、女性経営者

実は、金融機関の渉外担当者は内心、「お金を貸したくて」うずうずしている。優良な融資先、投資先が減少傾向にあり、金融機関同士の「貸し出し競争」も激しさを増しているからだ。銀行マン時代に渉外担当だったときの村上さんは、ある“秘策”を考えて、営業成績トップを続けた凄腕だった。

「担当エリアの有力な税理士さんと懇意になったのです。地元企業の顧問を何社も引き受けていて、財務内容から経営者の家庭事情まで知り尽くしていたからです。そのなかから融資先として信用できる、地元の隠れた優良企業を紹介してもらいました」

新規開拓に成功した優良企業のなかでも、特に印象に残っているのが、独身の女性が社長を務める「カブトムシ屋」だったと村上さんは明かす。その女性社長は子どもがいなかったせいか、「子どもの喜ぶ顔が好きなのよ」が口癖だった。カブトムシを取り扱うようになったのも、カブトムシに触れたときの子どもの笑顔を見て、「こんな笑顔を増やしたい」と考えたからだそうだ。「そういう考え方なら、顧客に支持され続けていくでしょうし、融資したいと思いました」と村上さんはいう。

つまり、融資を受けたいと欲したなら、まず「金融機関の渉外担当者の心を射よ」ということだ。VCが企業への投資を検討する際も、経営者の資質が重視されるのだと嶋内さんはいう。

「ベンチャー企業は『山あり、谷あり』で、失敗や壁に直面した際に、危機を乗り越えようとする意思や、周囲の意見を積極的に取り入れようとする姿勢が、経験から学ぶ力となり、成長に影響しているように思います。最近では、経営者もVCの担当者もSNSでお互いの繋がりがよくわかりますので、自分たちの見立てがおおむね適切なのかどうかは、周囲の方に印象を確認しながら固めていることもあるようです」

約束の履行が、信用醸成の第一歩

それでは、金融機関は具体的にどんなキャラクターの社長なら、「融資したい」「投資したい」と考えるのだろうか? 反対に、「この人には融資したくない」と担当者に思われてしまうような残念な社長とは、どんな人物像なのだろうか?

融資の前提条件として、まずいえるのは、「信用できる人物」かどうかということ。それには、日頃からの小さな積み重ねがモノをいう。