融資や投資を判断する審査の担当者。意外なことに彼らは利益や資産だけでなく、経営者の人間としての器を見ているのだ。

赤字でもお金を貸す社長、黒字でも断る社長

金融機関は融資する場合、これまで金融庁の「金融検査マニュアル」にならって審査を行ってきた。審査基準としては、大きく分けて「定量評価」と「定性評価」がある。

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定量評価とは、売上高や利益、資産、負債といった、数値化された経営指標による評価。一方の定性評価とは、経営者や社員の能力、市場や企業の将来性といった、数値化が難しいデータによる評価だ。地方銀行の足利銀行で渉外(営業)を担当し、数多くの中小企業に融資した経験を持つ経営コンサルタントの村上浩さんは、融資審査の手順について、次のように説明する。

「融資先候補の企業には、まず決算書を提出してもらいます。それらのデータによる定量評価、経営者との面談などによる定性評価などから総合評価して信用格付を行い、債権者区分を決めて、融資するかどうかを判断します」

信用格付は上から1~10格の10段階に分かれ、下位の7~10格には原則、融資は行わない。問題となるのは定量評価でボーダーラインとされた企業で、その命運を分けるのが定性評価なのだ。

定性評価が総合評価に占める割合は、一般にメガバンクでは約10%、地銀では約20%、信用金庫や信用組合では約30%といわれている。地域密着度が高い金融機関ほど、地元企業の振興のため、定性評価を重視する傾向にあるわけだ。みずほ銀行元常務執行役員で現在、第一勧業信用組合理事長として創業融資に力を入れている新田信行さんは次のように話す。

「ベンチャー企業や小規模企業に融資する場合、定量評価が難しく、実質的にはほぼ経営者で判断しています。事業に対する思いなど対話を重ねるなかで、経営者の人間性を見極め、『この社長は信用できるかどうか』と目利きをしていくわけです」

実は、金融検査マニュアルは2019年4月に廃止された。ある地銀で融資を担当する平野雄太さん(仮名)は4月以降の動きについて、「信用格付は現在も、金融検査マニュアルに準拠して行われています。しかし、定性評価のウエートは、確実に高まっています」という。

こうした審査方法は、証券会社や保険会社といったほかの金融機関も、基本的には同じ。ベンチャー企業に投資するベンチャーキャピタル(VC)や商社、投資家などは、定性評価で判断する余地が格段に大きいようだ。オリックス系のVCで数多くの投資を手がけ、現在は起業家教育の動画ラーニングを手がける嶋内秀之さんが話す。