「地方自治」を憲法第8章の表題にした駐留米軍の担当者は、日本にもアメリカのような地方自治があると考えていたに違いない。江戸時代の265年間プラス第2次世界大戦までの70年くらいの間に、日本の隅々まで根付いた中央集権制度がどれだけ堅牢か、日本の地方がいかに何もできないように仕組まれているか、ということまでは洞察が及ばなかったのだろう。

天皇制と国民主権を整合させることを優先して、天皇を象徴とした中央集権的な規定を憲法の前段に持ってきたために、地方自治の議論は後回しにされた。結局、憲法第8章の92条から95条までの条文策定については、日本の中央官僚が深く関与したと言われている。「地方自治体」ではなく「地方公共団体」という言葉が用いられた理由も、そのあたりにあると思われる。

なぜ世界には繁栄する地方が生まれるのか

世界を見渡してみると繁栄している「地方」というのは皆共通して強い自治権を持っている。たとえばアメリカは地方自治が非常に強い。もともと建国時の13の州の仲が悪くて、連邦にはするけどガバナンスはそれぞれの州に与えるというのが米連邦法である。

だからトランプ大統領が独裁的に振る舞っても、州知事は「我関せず」でいられる。下院の多数派を握った民主党がトランプ大統領の弾劾に動こうがどこ吹く風。共和党が多数派の上院と下院がねじれて連邦政府が機能しなくなっても、アメリカの繁栄は続いている。世界中からヒト、カネ、モノを集めてくる施策を独自に打てるからである。

日本の場合、中央政府の単発エンジンだから政府が変調をきたせば日本全体が失速する。その点、50の地方政府があるアメリカは50基のエンジンを搭載しているようなものだ。

アメリカの州と同様、連邦国家であるドイツの16の州(および3つの特別市)も三権を持っていて、それぞれ強力な地方政府を築いている。各州には州議会や州内閣、州法があり、三権のみならず一部ではあるが徴税権も有している。州知事は英語でミニスター・プレジデントと呼ばれている。逆に首相は地方の利害の調整役、という意味のチャンセラーと呼ばれる。

ミュンヘンに行くと高いビルがまったくない。ミュンヘン市が教会の尖塔より高い建物を禁じているからだ。ところがフランクフルトに行くと、ニューヨークと見まがうような高層ビルが立ち並んでいる。建築基準もそれぞれの自治体が決めているのだ。