管理を強めると利己的な思考になっていく

エンゲージメントがなぜ大切なのかということを、その概念の対極にある“管理”という観点から考えてみましょう。

管理を強めれば強めるほど、指示・命令・統制が多くなりますので、当然ながら従業員が自律的、能動的に仕事に取り組むことが少なくなります。また、失敗することを恐れるようになるため、リスクを取ることがなくなり、イノベーションどころか画期的なアイデアさえも出なくなります。

さらに悪いことには、失敗を恐れると人は自分の利益を最優先するようになるばかりでなく、他者の成功をねたみ、他者の失敗を望む利己的な思考をするようになります。こうした職場や会社では、メンバー同士のコラボレーションなど期待できません。

上司がなすべきなのは「サポート」

前述のような状況は、従業員の「学び」にも影響を与えます。

田口力『世界基準の「部下の育て方」』(KADOKAWA)

人は仕事の経験を通じてさまざまな学びを得て育ちます。しかし、仕事に取り組む姿勢の違いや、コミットメントの度合いの違いによって、学びの結果は大きく異なってくるのです。管理のし過ぎによって生まれるこうした負の効果は、部下育成において何のメリットもありません。

逆にいえば、このような状況を回避するためにも必要になるのが「エンゲージメント」という考え方です。

エンゲージメントという観点から見れば、上司としてなすべきことは「部下を管理すること」ではなく、「部下のアイデアや行動を強力にサポートすること」です。

そして、リスクを取ることに対する恐れを取り除き、挑戦的な課題に取り組むことを奨励しながら、メンバー同士のコラボレーションを起こさせることです。

そのためにも、“失敗に寛容な上司”になること、そしてそれをもう一歩進めて“失敗を奨励する上司”になることが、部下を持つ人の課題として浮かび上がってきます。

この課題を達成することは、簡単なことではありません。口では「果敢にリスクを取ってチャレンジしろ」と部下にゲキを飛ばしながら、失敗したら非難したり責任を追及したりする管理職が実に多くいます。