これまでの日本企業は従業員を「コスト」や「資産」とみなしてきた。だがその発想で社員を管理しても、自律的・能動的な仕事は生まれない。ゼネラル・エレクトリックで人材育成研修を行っていた田口力氏は、「従業員は自社への投資家と考える発想が必要だ」と説く――。

※本稿は、田口力『世界基準の「部下の育て方」』(KADOKAWA)を再編集したものです。

従業員を“投資家”ととらえる

近年、日本企業の人事施策においても「エンゲージメント」というキーワードがよく見られるようになりました。

GE(ゼネラル・エレクトリック)には、30年ほど前から「エンゲージメント」に取り組んできた蓄積があります。私もクロトンビルで、リーダーシップ研修の一部としてエンゲージメントを教えていました。部下育成の土壌として、エンゲージメントはとても大切な取り組みですので、まずその概略を紹介したいと思います。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Dean Mitchell)

エンゲージメントという概念は、従来の「従業員は会社の所有物(資産)」という発想を超えたところから始まりました。

従業員一人ひとりが持つ知識や経験、スキル、そしてアイデアや熱意といったものを、会社と自己の成長のために「投資」してもらうための取り組みがエンゲージメントです。

従来の考え方では、会社は従業員を「コスト」や「資産」と見ていました。そのため、総人件費の適正化や削減、あるいは従業員という資産への投資に対するROI(投資利益率)を最大化しようという取り組みをしてきました。

しかし、エンゲージメントという取り組みにおいては、従業員を、自社にとって最も大切な「投資家」と考えます。このパラダイム・シフトによって会社と従業員との関係性を捉え直し、従業員から、より高いコミットメントを引き出すことを狙いとしているのです。

ジャック・ウェルチがなぜエンゲージメントを重視したか

GEのCEOを20年間務めたジャック・ウェルチは、エンゲージメントの重要性について次のように述べています。

「従業員のエンゲージメントを何よりも優先しろ。企業規模の大小にかかわらず、どんな企業も、組織のミッションを理解し、それをどうやって達成するかわかっている、やる気のある従業員なくしては、中長期的に勝ち続けることは不可能だからだ」

このように従業員に対する見方を、従来のような「管理する」対象としてではなく「エンゲージする」対象として見るというように、パラダイムを転換する必要があります。従業員を会社の所有物であると考えている限り、それを管理するというパラダイムから抜け出すことはできません。