本物のエリート

「真のエリート」には2つの条件があります。第1に、文学、哲学、歴史、芸術、科学といった教養を十二分に体得していること。第2として「いざ」となれば国家、国民のために喜んで命を捨てる気概があることです。残念ながら、この本物のエリートが現在の日本からいなくなってしまいました。

とはいえ、現代は民主主義の世の中です。戦前のように一部のエリートが国家運営を決めていくのではありません。国内外ともに政治が堕落し、国会議員にも官僚にも国を託せる人物はなかなか見当たらなくなりました。どこの国でも、国民一人ひとりが未熟で、きちんとした国会議員をリーダーに選ぶ大局観を失っているのです。民主主義の下では、教養なき国民は確実に国を滅ぼすことを、近刊『国家と教養』の中で詳述しましたが、活字文化の衰退も大きく影響しています。

最後に、私の知り合いに元外交官で評論家の岡崎久彦さんがいます。彼は何人もの外国要人と折衝した経験則から「外交交渉でも最後に物をいうのは、その人の持つ人間性と教養だ」と語っていました。どの分野で力をふるうにしても専門知識などのノウハウは不可欠です。しかし、それだけでは不十分で、物事は人間としての魅力で決まっていきます。さらに、深い教養がないと相手も全幅の信頼をおいてくれないし、認めてもくれないのです。つまり、いつの時代、どんな地域においても人間の中身を高めることが決定的に重要だということです。

藤原正彦(ふじわら・まさひこ)
1943年生まれ。数学者、理学博士、お茶の水女子大学名誉教授。東京大学理学部数学科卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。『国家の品格』『国家と教養』(ともに新潮新書)など著書多数。
(構成=岡村繁雄 撮影=宇佐美雅浩)
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