「原状回復」を正しく理解してトラブルを回避

「部屋を貸した状態に戻せ」と大家が要求し、一方的に敷金から差し引くと言われている――。賃貸物件の退去時に、借主がこのような敷金に関するトラブルに見舞われるケースは少なくない。どうすればトラブルを避けることができるだろうか。

敷金は、家賃の滞納や部屋の損害などのリスクを補填・保全するために、貸主が借主から預かるお金だ。法的に支払いは義務付けられてないが、貸主と借主との契約が交わされていれば、退去時、貸主は敷金から補填・保全にかかった金額を差し引いて返還するのが一般的である。

敷金のトラブルでもっとも多いのは、原状回復にかかる費用を貸主と借主のどちらが負担すべきかで揉めるケースだ。そこで国土交通省は平成10年、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を取りまとめた。

 

ガイドラインでは、「原状回復とは借主が借りた当時の状態に戻すことではない」と明確化。借主に原状回復義務が生じるのは、通常の住まい方・使い方をしなかったり、手入れや管理が悪かったりしたことで発生した損耗などとしている。つまり、通常の使用による経年劣化や自然損耗は、借主の負担にはならないということだ。

たとえば、日照による畳やクロスの変色、家具の設置による凹み、画鋲の穴などは、通常の使用による損耗の範疇でセーフだが、タバコのヤニや臭い、結露を放置したカビ、釘穴やネジ穴は借主負担。また、クロスやカーペットなどの内装材は6年で残存価値が1円になると決められている。この期間、価値の減少分を賃料で負担したことになるので、退去時、設備の取替費用まで払う必要はない。ガイドラインは国交省のホームページに掲載されているので、大家が敷金の一部または全部を返そうとしない場合、妥当かどうかをチェックするといいだろう。

クリーニング代を負担する特約は無効にできるか?

退去時のクリーニング代、畳表・襖の張り替えを借主が負担するという特約付きの契約が多く見られる。以前は消費者契約法に違反するとして、このような特約を無効とする判例も多く見られたが、最近はほとんどの下級審でこの種の特約を認めている。もし入居時の契約に含まれていたら、支払いを拒否するのは難しいかもしれない。

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不当と思われる場合は、敷金の返還を求める旨とその根拠をまとめて内容証明郵便を送ると、貸主に本気で対抗する意思が伝わって、効果的である。それでも相手が応じない場合は、敷金返還訴訟に持ち込むという方法もある。

だがもっとも重要なのは、入居時にトラブル防止策をとっておくことだ。契約書を十分に読み込み、とくに特約事項は注意深く確認したうえで契約する。入居後は、1週間以内に部屋の状況をできるだけ細かくチェックし現況確認書を作成。1通は手元に残し、1通は管理会社に送る。仲介に入る不動産業者が、契約締結後、どこまで借主と貸主の間に入ってケアしてくれるかも、ぜひ確認しておきたい。

借りた当時の状態に戻す必要はない。クロスの変色、家具の凹みは貸主の負担

梶田順久
行政書士・宅地建物取引主任資格者

長年大手商社に勤務。退社後、行政書士に。賃貸住宅の退去立ち会い同席、トラブル回避件数は約2000件。賃貸住宅問題のコンサルタントとして紛争防止に活躍中。