むしろ「思いの共有化」と表現し、良いものと理解して、あたかも自分と同列の主体であるかのように認める傾向が強いのです。これが「私」から「われわれ」への不可逆な転換点であり、これに慣れ親しんでいる日本人は、「われわれ」を多用し、英語でも、「We」を使うことが多いのではないでしょうか。

説得力よりも「納得」しないと合意しない

小笠原泰『わが子を「居心地の悪い場所」に送り出せ 時代に先駆け多様なキャリアから学んだ「体験的サバイバル戦略」』(プレジデント社)

もう一つ、日本人の「議論」と欧米人の「議論」の違いを紹介したいと思います。日本人の間でよく耳にする「理屈はわかったが(説得されたが)、納得しかねる」という決まり文句があります。論理的な整合性のある正しさ(道理にかなっている)を示す「正当性」だけでなく、それが「正しい」手続きによって形成されたのかという「正統性」の要素を満たさないと、「説得」はできても「納得」には至らないという意味でしょう。

筆者の知る限り、欧米の「議論」では、「説得」されたならば、つまり、相手の意見の論理的な「正当性」を認めれば、おおむね「納得」する、つまり、「議論」の経緯の「正統性」は問題にはしませんが、日本の場合は、むしろ「納得」、すなわち「正統性」の方が、「説得」、すなわち「正当性」に勝るのではないでしょうか。故に、日本では、「説得」されても、最後に「納得」しないと「ちゃぶ台返し」をするので、欧米的な「議論」を通して結論を導き出すことが難しく、本質的な合意に至らないのではないかと思います。

話をシンプルにするために、多少デフォルメしていますが、グローバル化する社会で生き抜くことを考える必要のある若い世代は、日本の「議論」と欧米の「議論」の違いを十分に意識する必要があります。多様性を前提に置くグローバル化する社会で必要とされる「議論」が説得重視の「議論」であることは言うまでもありません。

説得重視の論法を身につけるには

それを身につけるためには、

・社会の多様性を認め、
・相手との意見の相違を前提に、
・自らの明確な意見を持ち、
・相手を特定して、自分の意見を述べ、
・agree to disagree(不同意に同意)を許容し、つまり相手との対立点を認識し、
・対話を通して、新しい、より良い意見を得られる可能性を追求し、
・その過程で、無理に相手の同意、すなわち全会一致は求めようとしない

ことを肝に銘じる必要があります。

その第一歩として重要なことは、「正解」を述べることではなく、人に伝えるべき「自分の意見」を持つことです。グローバル化する社会で必要とされる説得重視の「議論」において相手が聞きたいのは、あなたの「意見」であって、「正解」ではないことを理解してください。まずは、「われわれ」という言葉を意識して使わないようにすることを試みてほしいと思います。

小笠原 泰(おがさわら・やすし)
明治大学国際日本学部教授・トゥールーズ第1大学客員教授
1957年生まれ。東京大学卒、シカゴ大学国際政治経済学・経営学修士。McKinsey&Co.、Volkswagen本社、Cargill本社、同オランダ、同イギリス法人勤務を経てNTTデータ研究所へ。同社パートナーを経て2009年4月より現職。主著に『CNC ネットワーク革命』『日本的改革の探求』『日本型イノベーションのすすめ』『なんとなく日本人』『2050 老人大国の現実』など。
(写真=iStock.com)
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