介護に疲れ果てた妻たちの「愚痴」

本に書きましたが、脳梗塞の夫を持つ看護師さんに愚痴られたことがあるんですよ。その後も何人かの奥さんから脳卒中(※)の夫の文句を聞かされることがあって、挙げ句、再発して亡くなったことまで報告されたときは、さすがに不愉快になりました。

※脳卒中:脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、一過性脳虚血発作の総称

でも後遺症がどんなかはひとりひとり全く違うので、家族の感じ方もそれぞれだと考えたら、他人の私に愚痴を吐き出した奥さんたちは、みんな、つらくてつらくて限界だったんだと、後でハッと気がついたんですよね。それと同時に、この病気の残酷さを感じずにはいられませんでした。

どんなにしんどくても、家族は「本人に比べたら大したことない」という思考に陥りがちだし、世の中的にも家族は支えて当然、という風潮がある。そんな中で、「だけど私もつらいんだ」とは言いたくても言えないわけです。するとこっちもどんどん嫌な人間になってしまう。それは誰にとっても不幸でしかないですよ。

「つらい」って大声で堂々と言っていい

――患者とその家族は退院後、どうやって生活していくべきなんでしょうか。

これはわが家の経験からですが、仕事をしていた患者さんは、後遺症が残っていてもリハビリと並行して仕事復帰できるとなれば、いち早く復帰できるといいと思います。

もちろん本人にとっても社会から必要とされることはリハビリの励みになると思うし、実際、夫が発病前より時間はかかっても同じクオリティの仕事をできたときは、とても大きな自信になったようでした。

またパートナーの方も、私自身が没頭できる仕事があったことで救われたように、しんどいときでも仕事はできるなら手放さないでおく方が良いと思います。

そうやって物理的に距離を置くことができればお互いつぶれてしまう危険を回避できるし、支える側も病気ではなく本人を恨んでしまう悲しすぎる思考に陥らずに済むと思うんです。

三澤 慶子『夫が脳で倒れたら』(太田出版)

家族側は「介護の手が要らないからわが家はまだ大変じゃないほう」とか、「自立してるからうちはまだマシ」「本人の方がつらいんだから」とかって、勝手に苦しさをランク付けして「こんなこと言っちゃいけない」と自分を追い込んでしまいがちです。

患者同士でも、「あの人に比べたら僕のまひなんて」みたいなマウンティングがある。「自力で歩けるのに、こんな泣き言言っちゃいけない」とかね。

後遺症の重さに関係なく、みんなつらい。そこからスタートしないと、みんなが不幸なんです。だから家族も「つらい」ってもっと大声で堂々と言っていい。私ももう、言っていこうと思って。だってほんとに大変なんだもん(笑)。

三澤 慶子(みさわ・けいこ)
ライター
北海道生まれ。SSコミュニケーションズ(現・KADOKAWA)にてエンタテインメント誌や金融情報誌などの雑誌編集に携わった後、映像製作会社を経てフリーランスに。手がけた脚本に映画『ココニイルコト』『夜のピクニック』『天国はまだ遠く』など。半身にまひを負った夫・轟夕起夫の仕事復帰の際、片手で出し入れできるビジネスリュックが見つけられなかったことから、片手仕様リュック「TOKYO BACKTOTE」を発案、2018年にブランドWA3Bを立ち上げる。
(聞き手・構成=小泉なつみ 撮影=プレジデントオンライン編集部)
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