世界一孤独な国・日本が「岩崎容疑者」を生んだのか
許しがたき凶行であり、悲劇だった。どんな理由にせよ、生い立ちにせよ、絶対に許されるべきではない凶悪犯罪。しかし、その犯人は責めを負うこともなく、罪を償うこともなく、身勝手に命を絶った。
5月28日、川崎市でスクールバスを待っていた小学生などが次々と包丁で刺され、2人が死亡、18人がけがをした。事件を起こしたのは川崎市麻生区に住む岩崎隆一容疑者(51)。小学生たちを刺したあと、自ら首を刺して自殺した。
行き場のない怒りをどこへぶつければいいのか、誰もが苦悶している。高齢者の自動車事故であれば、安全性をどう高められるのかを考える。アメリカで銃の乱射事件があれば、銃規制の議論が起きる。
しかし今回の場合、犯人の狂気以外、指弾すべき対象や問題があったのかはっきりしない。なぜ、こうしたことが起こったのか。防ぐ手だてはなかったのか。そう考えた時、議論してほしいテーマがある。
それは「孤独」である。
社会から隔絶され徐々に精神が蝕まれていった
岩崎容疑者を追い詰めたもののひとつに「絶望的な孤独感」があったと思うからだ。51歳の彼は10代のころからひきこもり状態で、同居の伯父や伯母ともほとんどコミュニケーションがなかったと伝えられている。孤独だから犯罪に走るとか、孤独だったからとか言って、彼の行為が免責されることは断じてない。しかし、彼の精神は、社会から長期間にわたって隔絶されたことで、徐々に蝕まれていった側面もあるのではないか。
「孤独」は今、世界で「現代の伝染病」ともいわれる大問題である。都市化、過疎化、非婚化、少子化、高齢化などにより、「孤独」に苦しめられる人が増えており、これが社会的な問題として、海外では国家を挙げて対策が進められるようになっている。イギリスでは昨年2月、「孤独担当大臣」まで設置された。
アメリカ・ブリガムヤング大学のジュリアン・ホルトランスタッド教授(心理学)は2010年、「社会的なつながりを持たない人は、持つ人に比べて、早期死亡リスクが50%上昇する」と発表した。そして、孤独のリスクは、「一日タバコ15本吸うことに匹敵、アルコール依存症であることに匹敵、運動をしないことよりも高い、肥満の2倍高い」と結論付けている。