「宇宙」はファッショナブルでかっこいいモチーフ

【柳川】ちなみにチャレンジという意味では、キュアミルキー(シリーズ初の宇宙人プリキュア・羽衣ララ)はスカートすら履いていなくて、かぼちゃパンツです。「プリキュア」シリーズでは定番の「変身後に髪が伸びる」も、彼女に関してはあまり伸びない。最近の「プリキュア」では珍しいキャラクターなんです。

【原田】女児が必ずしもロングヘアーに憧れるとは限らない時代になっている可能性もある、ということですね。そういう意味では、今回のプリキュアは新しい令和の時代の男女の形も暗に示しているんだね。

「スター☆トゥインクルプリキュア」の4人の主人公。左から、キュアスター、キュアミルキー、キュアソレイユ、キュアセレーネ。©ABC-A・東映アニメーション

【柳川】「宇宙かわいい」は、最近の原宿系のファッションとしてははやっていましたよね。宇宙モチーフ単体だと男の子的になりがちなところを、そういったファッション要素を加味することで、女の子でも身近に楽しく感じてもらえるかな、と。

【原田】原宿系の「宇宙かわいい」って、たとえばきゃりーぱみゅぱみゅ?

【柳川】きゃりーもそうですし、「夢かわいい」とか「病みかわいい」とか、あの辺のイメージ(※)ですね。宇宙要素に限っていえば、2017年にシャネル、グッチ、コーチなど幾つかのハイブランドが同時多発的に「宇宙」をデザインのヒントにしたコレクションを発表していました。「宇宙」はファッショナブルでかっこいいモチーフになりつつあると思います。

※編集部注:「ゆめかわいい」は、メルヘンやファンシーなモチーフで彩られた夢の中のような世界を指す。名付け親は原宿系モデルのAMOだといわれている。「病(や)みかわいい」はその派生で、パステルカラーだけでなく、黒色が使われたり、包帯や注射器などの医療用具が出てきたりする。

「ダンス必修化世代」だからミュージカル風を狙った

【原田】ところで、変身中にプリキュアがミュージカルのように歌うのも、これまたシリーズ初ですよね。

【柳川】「プリキュア」のビジネスの核は「なりきり欲求を高める」なんですよ。女の子たちの「私もプリキュアになりたい」という欲求によって、イベントに参加してもらったり、映画を観てもらったり、おもちゃを買ってもらったりしています。その「なりきり欲」を高めるひとつの施策として、「歌いながら変身」を入れ込みました。歌いながらだと、変身用のおもちゃを持ったまま棒立ちにならないんですよ。

【原田】完全にわが家はやられていますね(笑)。確かに今の女児は「ダンス必修化世代」だから、ミュージカル風にしたほうが、参加意欲や没入感をより高められるかもしれないね。

加えて、今の若者たちはSNSなどで周りから「いいね」をもらって自己承認欲求を満たす世代。SNSや写真や動画がある限り、恐らくその下の世代にもこの「自意識過剰感」が引き継がれている。そう考えると、より参加感があるミュージカルのほうが、子供たちの自意識過剰感を満たすには適しているんだろうね。

【柳川】あとは歌が入ると、実際にうまくマネできたときに、やりきった達成感が味わえるんです。お子さんとしては、うまくできたら親に見せたいと思いますし、親御さんもお子さんの上達ぶりを感じてうれしいでしょうから。