「朝鮮半島にルーツ」があるだけでレッテル張り
ネット右翼には、全くつける薬がない。ネット右翼は体系的な知識を持たず、本を読まず、一次資料にあたることは一切なく、自分より上級の自称「保守系言論人」に寄生し、その珍説・トンデモ陰謀論を垂れ流し続けている。その「垂れ流し」は、まるで上流にある公害企業が、下流にある清廉な漁場を重金属で汚染するかの如く、ネット上に播種し、取り返しのつかないネガティブなイメージを特定の企業に与えることになる。
連載第3回目の今回は、小売店の革命児「ドン・キホーテ」(以下、ドンキ)に対するいわれなき反日企業、在日企業のレッテル張りを検証したい。
前回の連載(第2回)で、孫正義社長率いるソフトバンクが在日企業として名指しされ、ネット右翼界隈から不契約運動なるものが巻き起こったことを描いた。その理由はただ一つ、孫正義氏が在日コリアンの帰化人であったことに尽きる。
この国のネット右翼は、日本国家に帰順を誓い帰化しようがしまいが、「元在日コリアン」「朝鮮半島にルーツを持つ代表者」という事実のひとつがあれば、それを際限なく拡張して反日企業・在日企業のレッテル張りをする。それに踊らされ、珍妙な都市伝説を披露したのが、当時ネット右翼番組の領袖のひとりである水島総氏であったことは前回連載で指摘した。
「安田姓=反日企業」という脳が爆発しそうな屁理屈
さて、今回は、ドンキとその創業者、安田隆夫氏へのネット右翼のいわれなき攻撃についてだ。ネット右翼がゼロ年代から攻撃を強めたのには、2つの理由がある。それは創業者・安田氏の名前と、ドンキが持つ身体的イメージである。後者は後に触れるとして、前者の"創業者・安田氏の名前"とはどういうことか。
例えば「安」という氏名の在日コリアンが、通名使用や帰化の際に「安田」や「安本」を名乗る、改姓する、ということは決して珍しくはない。だが、「安田」姓自体は伝統的に日本の氏族(桓武平氏の系統など)であることは自明であり、そもそも「安」という一文字の姓も日本固有の氏族として存在する。
にもかかわらず、ネット右翼はこれを以て、在日コリアン、若しくは帰化人には「安田」姓が多いと勝手に断定している。
事実、昨年(2018年)10月、シリアで武装勢力に拘束され、3年4か月ぶりに解放されたフリージャーナリスト・安田純平さんをめぐって、ネット右翼は彼が「安田姓」であることだけを根拠に、「在日」もしくは「帰化人」である、と妄想をたくましくして「自己責任論」をぶちあげた。安田さんが日本人ではないのなら、日本の税金を使って救助するのは筋が通らないというものだが、安田さんは歴とした日本人であった。実に馬鹿馬鹿しいと言わなければならないが、所謂ネット右翼による「在日認定」とは、この程度の根拠で行われているものなのである。
だからドンキの創業者である安田隆夫氏も、在日コリアンか、ないしは元在日コリアンに違いないのだから、その企業全体が反日企業であり、在日企業である、という脳が爆発しそうな屁理屈を考案したのである。試しに、グーグルで「ドンキ 安田」と検索すると、真っ先に「在日」と検索候補が出るのは、こういったネット右翼の根拠なき名前のみに依拠した「在日認定」の消し難い負の遺産なのだ(グーグルも、こういった悪質なデマ検索の痕跡は、削除する努力を行ってほしいものである)。