バブル崩壊以後は「現状維持」が重視され、経済が停滞

1990年代以降わが国の企業には、「チャレンジする気持ち」を押し殺してきた部分があるように思う。1980年代後半から1990年代初め、わが国は、資産バブル(株式と不動産の価格が急騰した経済環境)に沸いた。その中、多くの企業が、経済は右肩上がりの成長を続けると、根拠なき楽観に浸った。

1990年代初頭にバブルは崩壊した。人々は、資産価格の急落と景気の低迷に直面した。急速な経済環境の悪化から、わが国の企業は「専守防衛型の経営」を優先した。言い換えれば、「羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く」という心理が経済全体に広がったのだ。企業経営において、新しい発想に取り組むのではなく、これまでの取り組みを続ける現状維持の発想が重視された。

その上、1997年には金融システム不安が発生し、わが国企業のリスク回避姿勢は一段と高まった。この結果、経済全体で、成長を追い求めて新しいことに積極的に取り組む活力が削がれた。これが、わが国経済が長期の停滞に陥った原因だ。

政府には採算性を重視し、変化に適応する発想はない

ホリエモンロケットの打ち上げ成功の背景には、“夢”の実現にこだわり、ロケットの作成にチャレンジしたISTメンバーや、堀江氏の情熱がある。ISTのメンバーは、コストを抑えるためにホームセンターで資材を買いそろえ、自分たちで加工を行った。また、堀江氏は、資金調達やPRの面で、その取り組みを後押しした。成功を追求し、チャレンジし続ける情熱がスポンサーを動かし、打ち上げ成功という“感動”を生み出した。

ネットワークテクノロジーの普及とともに世界経済は急速かつ非連続に変化している。世界的な小型ロケット需要の高まりは、その一つだ。

もともと、政府(官)には、採算性を重視し、急速な変化に適応するという発想はない。変化に対応し、成長を目指すには、民間の活力が欠かせない。企業が新しい取り組みにチャレンジし、その成功を通して付加価値を獲得することこそが、経済の成長を支える。

わが国が、人々が夢や新しい発想の実現のためにチャレンジしやすい環境を整備できれば、今回のような成功を増やすことができるだろう。成功が世の中に伝われば、人々は感動する。「私もやってみたい」という気持ちを持つ人も増える。それが、わが国全体でアニマルスピリッツを高めることにつながる。