日経新聞「企業年金」のスキームは持つのか

【成毛】でも、年金がなくなる。

【大西】その点に関して、日経新聞は優しい会社で。企業年金はそのままにしておいてくれるんですよ。それも3%とか、信じられない利率で運用してくれる。

【成毛】いつからですか、企業年金の支給は?

【大西】一応60歳からですが、そのとき、そのまま運用を任せておくことも可能で。65歳まで引っ張れます。さらに60歳になると、会社に運用してもらいながら月々でもらうか、まとめてもらうか、といった選択もできる。

【成毛】それはすごい。マイクロソフトには企業年金なんてなかったです。

【大西】ただ有り難いな、と思いながらも、このスキームがこの先本当に持つのかな、という懸念もあります。そのうち会社側が「維持するのは無理です」って言い出すんじゃないかな、とも。

新聞記者だから「会わない人」がいる

ジャーナリスト大西康之氏(撮影=中央公論新社写真部)

【大西】フリーになることを「決断」したとき、お金のこととかより、会社の名刺を失うことで、この先取材ができなくなるのでは、という不安の方がずっと大きかったです。

【成毛】そりゃそうだ。日経新聞という「代紋」は強いからなあ。

【大西】これから先、誰からも相手にされないのでは、辞めた途端「お前誰だよ」といった扱いになるのではないか、と。とはいえ「元日経新聞の」とか「この間まで日経BP社にいて」といったら「負け」とも思っていました。ただ「ジャーナリストの大西」って、それはそれで胡散臭い。誰も信用してくれないだろうな、そんな肩書は、とも思っていて。

でもいざフリーになってみたら、そうした心配とはまったく無縁で。むしろフリーになったことで、日経新聞の名刺を持っている間、アクセスできなかったところまで取材ルートが広がりました。

【成毛】どういうことですか?

【大西】たとえば、雑居ビルの一室にあるベンチャー企業や、金融といっても、少しヤバめの筋や人権派の弁護士とか。

【成毛】新聞社の名刺では、会えない?

【大西】おそらく、磁石のプラス・マイナスのようなイメージでしょうか、日経新聞の記者が現れると、とたんに姿を消す世界がある。一方で日経新聞は自分たちなんかどうせ相手にしないでしょう、と思っている人も多い。新聞社の名刺がなくなったら、それがくっついてきた。新聞記者だから会ってくれる人もいれば、避ける人もいる。それがわかりました。