所有株式が3%以下でも「オーナー」然とふるまえた

瀬戸氏や伊奈氏ら株主提案を行っている「反潮田」派の人たちは、指名委員会が、菊地氏を通じて潮田氏の影響下にあるのではないかと疑っている。

大型連休前に、リクシルの上級執行役らで編成する「ビジネスボード」のメンバー14人のうちの10人が、指名委員会に文書を送ったことが明らかになった。

報道によると、そこには「潮田氏のビジョンは従業員や株主、すべてのステークホルダー(利害関係者)にとって有害なものに思える」と書かれているといい、経営幹部が公然と潮田氏に反旗を翻した格好になっている。

こうした経営権を巡る騒動が表面化するのは、日本企業のコーポレートガバナンスが大きな変革期に来ていることを示しているのではないか。

おそらく20年前だったら、創業家の「大物」が社長のクビをすげ替える事に誰も異論を挟まなかったに違いない。仮に創業家出身の会長が大株主でなくても、である。実際、潮田氏は創業家出身と言っても、個人で所有する株式は発行済み株式数の0.15%、信託財産で議決権行使の「指図権を留保している」とされる株式を加えても3%に満たない。それでも「オーナー」然としてふるまえるのが、かつての日本企業だった。

一連の騒動の発端は「実力者の独断専行」

その背景には、銀行や生命保険会社といった大株主が、ほぼ無条件で会社側に投票する「モノ言わぬ株主」であり続けたからだ。株式持ち合いといった仕組みによって事実上、経営者に白紙委任されていたのだ。

日本のコーポレートガバナンスの改革は2000年前後から進んだが、株主の行動が変わらない中で、ガバナンスの仕組みだけ変えても、実態は同じだった。指名委員会等設置会社は2003年に施行された。いわゆる監督(取締役)と執行(執行役)を完全に分離する欧米型を目指した。指名委員会の設置も義務付けられたが、現実には指名委員会がガバナンスの要として機能したとは言えなかった。

まっさきに導入してガバナンス先進企業と言われた東芝も一例で、実力者である会長(社内取締役)と、役人OBなどの社外取締役で構成された指名委員会は、事実上、会長の方針を追認するだけの機関になり、むしろ会長に権限が集中した。今回のリクシルも同じ構図で、瀬戸氏を解任した当時は委員長だった潮田氏に権力が集中していたとみていい。

ひと昔前ならば、社長の指名権を握る「実力者」の思うがままだったのだが、ここへきて騒動に発展したのは、機関投資家の行動が大きく変わったことにある。