失注すれば、社長はタダ働き

【加藤】それでも受注できればいいほうです。小さな町工場だと社長自身が見積もりをすることが多いのですが、社長は日中工場で働いて、夕方からようやくデスクワーク。工場の仕事と並行して部品100点の見積もりをすると、1~2週間かかる。そうやって苦労して見積もりを出しても、メーカーは4~5社に相見積もりを出すため、受注率は約2割。失注すれば、社長はタダ働きです。

田原総一朗●1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所入社。東京12チャンネル(現テレビ東京)を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。本連載を収録した『起業家のように考える。』(小社刊)ほか、『日本の戦争』など著書多数。

【田原】それじゃ会社が成り立たない。

【加藤】先日話を伺ったネジ会社は、1日7時間を見積もりに充てているのに、受注率は1割を切っているとか。どこも苦しんでいます。

【田原】町工場が大変なことはわかりました。でも発注側は買い叩けばいいのだから、困らないですよね。

【加藤】いや、メーカーが丸投げで発注して、町工場が自社にノウハウや経験がない部品まで受けると、高コストになって最終的には価格に反映されます。しかも、品質も満足できるものではないかもしれない。それはメーカーにとってもデメリット。本当はそれぞれの部品ごとに豊富なノウハウと経験を持つ町工場に作ってもらったほうがいい。そこを自動で見積もりしてマッチングする仕組みをつくれば、双方にメリットがあるはず。そう考えてキャディを起業しました。

【田原】自動化ってどういうこと?

【加藤】自動化には2つのステップがあります。まず、発注する部品がどういう形状のものであるかを設計のデータから解析。2つ目のステップとして、解析結果をもとに原価計算を行い、最適な町工場を自動で選びます。かつては人力で1~2週間かかっていたものが、自動化によって7秒で済む。そういうシステムを開発しました。

【田原】そんなシステム、よくつくれましたね。

【加藤】ひとつ目のステップは数学の世界。共同創業者の小橋昭文はスタンフォードを出てアップルの本社で働いていたエンジニアで、数学やアルゴリズムの解析をずっとやってきました。一方、私はマッキンゼーで原価計算をしてきて、2つ目に強い。2人の得意なものを掛け算して開発しました。

【田原】なるほど。

【加藤】じつは調達の世界はイノベーションが100年起きていませんでした。前工程の設計と後工程の製造ではイノベーションが起きているのに、なぜ調達は昔のままだったのか。それは前工程の設計がデータ化されたのがごく最近だったからです。設計はCADというツールで行いますが、多品種少量のものにCADが使われ始めたのは、ここ5~10年。設計のデータ化が進み、ようやく調達も自動化が可能になりました。

【田原】環境が整ったのならほかにもやる人はいそうだけど、どうして加藤さんたちしかやってないの?

【加藤】やろうとしている方たちはいましたが、苦労されていたようです。というのも、最初のステップが非常に難しいんです。CADのデータで示されるのは立体。その部品を板金で本当に作れるのか。作れるとしたら、板は何枚必要なのか。そういった解析をしないと見積もりはできませんが、その解析の部分が非常に数学的で、誰でもできるものではない。