【加藤】むちゃくちゃになるのも理由はあるんです。自動車のように大量生産するものなら、部品1つひとつに人をつけてもペイします。しかし、電車のように多品種少量のもので同じことをやると人件費がペイしないので1人あたりの仕事が多くなっちゃうんです。

キャディ社長 加藤勇志郎

【田原】マッキンゼーでは、そこをどうやって改善しようとしたのですか。

【加藤】マッキンゼーにはコスト計算のプロがグローバルで数百人規模でいました。たとえば電車に使う空調設備が1台500万円だとすると、空調設備を分解して原価を計算。それをもとに「これは400万円が適正じゃないですか」と交渉をします。ただ、それだけだとあまりクリエーティブじゃない。設計まで踏み込んで「この設計を変えれば、もっと低コストでつくれますよね」と提案するところまでサポートしていました。

【田原】マッキンゼーで活躍されていたのに、どうして辞めて起業しようと思ったの?

【加藤】もともとマッキンゼーに入社したのは、一生をかけてトライできる社会課題を見つけるため。製造業の調達に大きな課題があるとわかったので起業しました。

【田原】課題は何ですか? それはマッキンゼーでは解決できない?

【加藤】マッキンゼーがやっていたのは、多品種少量のなかでも金額の大きい部品でした。でも、点数が多いのは、むしろ金額の小さなものです。たとえば電車車両の部品3万点のうち、板金で作るものは1万2000点ほどありましたが、コストとしては1~2割にすぎません。これらはマッキンゼーも触ろうとしないので、非効率なまま残っていました。そこを効率化できたら社会的な意義も大きいなと。

【田原】金額の小さい部品はどうしていたんですか?

【加藤】1つひとつは精査できないので、町工場に丸投げして買い叩きです。何社か相見積もりを取って、あとは「5%下げろ」という世界。

【田原】町工場はたいへんですね。

町工場が抱える見積もり地獄

【加藤】板金屋をする町工場は日本に約2万社ありますが、そのうち8割は社長を含め従業員9人以下の会社で、半分は3人以下。零細の町工場だと、工作機械も3~4台しか持っていません。そこに100~200点の部品を丸投げすると、どうなるのか。自社が得意な部品はいいのですが、そうではない部品はほかの工場に外注したり、自社にノウハウがないのに頑張って作ったりする。そうするとコストが膨らむ。町工場の4分の3は赤字経営です。

【田原】町工場はどんな部品も自社で作れるわけじゃないのね。

【加藤】うちの会社では、板金は321のカテゴリーに分類しています。1社の得意分野はそのうち2~3件ですね。

【田原】ほとんどは不得意な部品なのに、下請けだから断れないんだ。