そのためには当ホテルのスタッフ各々が、心から仕事を楽しんで、生き生きと日々の業務をこなしているかどうかも大事になってきます。つまり、CSに加えて従業員満足(ES)の向上も不可欠なのです。
こう考えたとき、先ほどお話しした豊田氏がトップとして持っている“包容力”に気がつきました。おそらく、豊田創業家の血を受け継ぐ立場で帝王学を叩き込まれてきたのでしょう。それは、周囲の人たちをほんわかと包み込むリーダーシップといって差し支えないでしょう。
その意味で、私や当社の幹部クラスが彼から学ぶべきことは、従業員の意見を真摯に聞くということです。もし、その人の意見を取り入れないのなら、きちんと理由を説明します。ときには理不尽と思われる場合もあるかもしれません。しかし、それは会社という組織なので、その論理を懇切丁寧に説いて納得をしてもらうしかありません。
私の体験からいっても、入社後数年間は10提案しても、部長クラスまで上がるのは2つか3つ。採用はさらに少ないでしょう。その代わり、たとえ新人の意見であっても、やると決めたら全社一丸で実行します。これこそが会社が社員を大切にする姿勢そのものです。
実は、先ほどのCSとESは危機管理やメンタルヘルスにも直結する要素といえます。私どもでは全社的課題として取り組んでいるのですが、スタッフが笑顔だとコミュニケーションが円滑になり、現場での意思疎通をあえて確認する必要がありません。部下の仕事上のミスや悩みにしても、話しやすい風土ができていれば、上司に報告しやすい。当然、リスク回避になり、精神衛生上もプラスです。従業員が元気に働けているということが何より重要なことですから。
プロは良い点に注目
有名なことわざに「人の振り見て我が振り直せ」があります。この格言については、「他人の欠点を見て自分の行動を直す」のではないと、あるコンサルタントから教えられました。正しくは、「良い点に気づいてそこを吸収すること」だというのです。特に印象深かったのは「同業者についてダメな部分を見つける必要はない。そこは素人でもわかる。プロの目で良い部分を取り入れろ」とのアドバイスでした。
つまり、意識しないとネガティブな考え方をしがちだから、一流になるためにはポジティブな思考を習慣づけることが大切だということです。現に、私の座右の銘は「どんなことも楽しく」です。どのような仕事の中でも何か小さな楽しみを見つけて仕事を進めてきました。