自分ごとを話せば、会話は広がる
伊藤さんは、「日本人は誰もが中学高校の6年間英語を学んでいて、文法や単語もある程度は知っている。ただ使い慣れていないだけです。すでに知っている文法や単語を活用すれば、必要なコミュニケーションのほとんどがカバーできるように思います」と話す。高校どころか中学レベルのシンプルな英語で十分だ。「もちろん、会話の中には自分が知らない単語が出てくることもありますが、相手にどういう意味か聞けばいい。日本語の会話でも、わからない言葉が出てくれば相手に質問しますから、同じことです」と語る。
2つ目のポイントは、「自分ごとを話す」ことだ。例文では「例えば私の場合、結婚式は神社で行いましたが、父の葬式はお寺で行いました」と説明している。「ガイドブック通りの説明では終わらせない」のが伊藤さん流。歴史や背景の説明だけだと、なかなか会話が広がらないが、自分の経験に引き寄せて説明すると、親近感を持って聞いてくれる。相手もさらに関心を持って「神道の結婚式は、どうやって行うんですか?」「今の日本人も、神道で結婚式をする人が多いんですか?」などと盛り上がるだろうし、神社や寺に案内したときにも、ぐっと興味を持って見てもらえるだろう。
伊藤さんによると、「やはり外国人のお客様の多くは、日本の文化や歴史に興味を持っている」という。「高層ビルが立ち並ぶ丸の内周辺などよりも、浅草あたりの裏道にある古い一軒家などに興味を示します」。また、宗教への関心も高いため、「浅草寺と明治神宮には必ずといっていいほどお連れして、仏教と神道について解説します」。
日本茶の紹介をすることも多いという。「ビタミンが豊富で健康に良く、病気の予防になる可能性もあるとお話しすると、興味を持ってお土産に買っていく人も多い」という。軽くて日持ちもするので、お土産に喜ばれる。日本茶の説明をするときにも、「亡くなった父は日本茶をよく飲んでいました。彼は『いつもお茶を飲んでいたおかげで病気にならないんだ』と言っていました」と、自身の経験を織り交ぜながら紹介する。
東京観光タクシーの利用者は初来日のお客様が多いため、「観光中に不安を感じさせないことに気を使います」と話す。特に料金やコース、時間については事前のメールのやりとりで伝えてはいるが、運行中も丁寧に説明するようにしているという。こうした気遣いや、前述の「自分ごとを話して親近感を持ってもらう」などは、「必要な情報を間違いなく伝える」だけでなく、伊藤さんの「安心して、楽しんでほしい」というおもてなしの気持ちが表れていると言えるだろう。