東日本大震災の被災地では、医療現場が危機に陥っている。最大の問題はロジスティックス(物流・兵站)の途絶だ。

現在、筆者は「地震医療ネット」を立ち上げ、情報共有を進めている。「日常で汎用される降圧剤、高脂血症薬、抗凝固剤等が震災で失われ、在庫もほとんどない」「抗生物質や湿布、鎮痛剤等が次第に減っていき、利用を制限している」という声が寄せられている(3月18日現在)。1308床の東北大学病院ですら「CT検査のための造影剤はあと1週間分しかない」という状況だ。

原因の一つは、病院・市・県・国という平時における情報の流通ルートの破綻だ。被災地から情報が入らず、どう動くべきかわからない。発生当初、関係団体は「行政と協力して」と口を揃えながら、実質的には指示待ちだった。残念なことに医療界は「官」を補完する「民」のネットワークが弱い。厚生労働省の中央集権で統制され続けてきた副作用だろう。

明るい兆しはある。ネットを介したインフォーマルなネットワークが「自然発生」している。震災の被害が少ない秋田県の病院では、岩手県の病院に業務用タクシーでの医薬品搬送を進めている。被災地ではガソリン不足が深刻だが、天然ガスで動くタクシーならば影響を受けない。しかも秋田県は天然ガスが豊富だ。勤務医がツイッターをきっかけに思いつき、院長に提言した。こうした動きが、ソーシャルメディアで共有されつつある。

後方への被災者搬送では、医師のネットワークが突破口を開いた。3月17日、福島県いわき市から、約800人の腎臓病患者が搬送された。腎臓病では週2回の人工透析が欠かせない。亀田総合病院(千葉県鴨川市)や東京女子医大(新宿区)、帝京大学(板橋区)などの透析医ネットワークが地方自治体やバス会社、NPOとの協力で実現にこぎ着けた。政府を介さない大量搬送は画期的だ。

余談だが、患者搬送は軍隊の得意技だ。米軍は第七艦隊を派遣し救援要請を待っていたと聞く。なぜ早い段階で協力を求めなかったのか。検証が必要だ。「政府の強力なリーダーシップを求める」と言っているだけでは、問題は解決しない。自分に何ができるのか。具体的な方法を、それぞれが考える必要がある。

※すべて雑誌掲載当時