だから、他人と群れてリスクをとるっていう考え方はおかしいんですね。先のことなんて、他の人に聞いたってわからないですよ。自分の側近とかブレーンに聞いたって、未来は誰もわからないんですよ。聞いてもみんな、「こういうこともある、こういうこともある」って、ノーともイエスともとれる“間”を言うだけ。そんなの聞くだけ無駄。当たるも八卦、当たらぬも八卦。予測を立てたって、ほとんど失敗ですわ。

鹿児島県・屋久島の山中に赴いたり(写真上、2016年3月)、長野県・軽井沢で自転車のツーリングを楽しんだり(同下、12年頃)、ほかにもスキーや読書、音楽鑑賞など、鈴木氏の趣味は“1人で完結”できるものが多くを占めている。

だいたい経営者を長く続けていると、ある時点を過ぎると何でも全員賛成するようになっちゃうから、ますます聞く意味がないんですよ。独裁しかない。責任は、最後は自分にくるんですから。アドバイスしてくれた人に「おまえのおかげで酷い目に遭った」って責任をとらせるわけにはいかない。だったら、自分が朝起きたときの調子によって、とか、ものの弾みやその場の雰囲気で決める。それしかない。

人間関係の“断捨離”をやる

その代わり、損切りだけはひっきりなしにやっています。私、大言壮語しながら、いろんなことをちょっとずつやるんですよ。で、駄目だと思ったらやめてパッと引くんです。10回やれば1つくらい当たる。いけそうだと思ったらそれをやればいい。

そんなに難しいことじゃないですよ。例えば、自分で損切りのルールを決めておくんです。私は7%くらいやってみて、失敗したなと思ったらそこで全部見切るんですよ。見切り千両。そうすれば、そんなに大きくケガしないですわね。

株式投資なんかと同じです。評論家がもっともらしいことを言いますけど、自分がいいと思ったものをばらばら1000株くらい買っておいてね。それを損切りして、残ったやつに集中して、また損切りして最後に残ったやつに集中する。世の中のことは、ほとんどこの繰り返し。博打打ちみたいなもんですわ。

私は、イタリアの思想家マキャベリを自分の先生にしています。彼が書いた有名な『君主論』に、側近に相談するとき、すべてをその人に任せるとそいつはつけあがっちゃうから、部分的に相談しろという教えがあります。一番最適な奴に最適なものだけを聞く。自分で組み立てるんですよ。総合的に判断できるのは、一番上にいる者だけ。上にいけばいくほど1人で決めないと無理ですわ。でないと、発展性がないもんね。愛想がいいだけじゃどうしようもない。

今はいい時代ですよ。孤独だって言っても、ちょっと変人と思われるくらいで通りますから。私は、至近距離には敵も味方も友達も置かないようにしています。そのほうが気楽ですよ。ただ、知らない人とはできるだけ交わるようにしています。遠交近攻というわけです。

群れるのをやめて、孤独のほうに生き方を変えたいと思っている人は、とりあえず一緒に飲みに行くのをやめたらどうですかね。その代わり、酒は飲まないけどあんみつなら付き合うとか(笑)。断捨離をやったらいいんです。人間関係の断捨離。そうすれば、日々の生活もずいぶん違ってくると思いますね。

鈴木 喬(すずき・たかし)
エステー会長
取締役会議長兼代表執行役会長 1935年、東京都生まれ。都立新宿高校、一橋大学商学部卒業。59年日本生命保険入社。86年、親族が経営するエステー化学(現エステー)に入社。企画部長、営業本部首都圏営業統括部長などを経て98年社長。2007年会長、09年社長に復帰。12年より現職。著書に『社長は少しバカがいい。』。
(構成=金井良寿 撮影=永井 浩)
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