「米中の戦い」における真の目的

田中 道昭『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』(日本経済新聞出版社)

ここで明白なのは、「米中の戦い」の顕著な事例として米国からファーウェイが問題視されているということです。米国の真の目的は、ファーウェイの米国およびその同盟国での通信基地事業展開、特に5Gでの覇権を阻止すること、それに伴って中国政府が推進する「中国製造2025」の実行を中止させることではないかと見ています。孟副会長の逮捕は、「米中の戦い」が単に米中貿易戦争ではないことを物語っているのです。

これからファーウェイはどうなるのでしょうか。すでに日本を含めて米国の同盟国は、政府関連の通信機器等において同社製品を事実上締め出す方針を明らかにしました。米国の強固な姿勢を目の当たりにして、同社との取引を見直す動きも出てくるのではないかとも予想されます。

その一方で、ファーウェイ側では、まさに国の威信をかけた総力戦で中国やグレーターチャイナ(中華圏)で完結するサプライチェーン構築を急ぐことになるでしょう。私は本年3月と4月にも中国出張をしましたが、表面的かつ短期間には米国への配慮を示しながらも、水面下では絶対に米国にテクノロジーで負けないための準備を着々と進めようとしている中国の強い決意を感じました。そんななかにおいても、「中国リスク」の顕在化が、『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』で取り上げているBATHの他の中国メガテック企業にも及ぶか否かにも大いに注視しておくべきだと考えます。

田中 道昭(たなか・みちあき)
立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学経営大学院MBA。専門は企業戦略&マーケティング戦略、及びミッション・マネジメント&リーダーシップ。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)などを歴任し、現職。主な著書に『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』(以上、PHPビジネス新書)、『GAFA×BATH 米中メガテック企業の競争戦略』(日本経済新聞出版社)、『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』(日経BP社)『「ミッション」は武器になる』(NHK出版新書)などがある。
(写真=iStock.com)
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