「ジョブズ亡き後のアップル」がヘルスケア市場を破壊する

スティーブ・ジョブズ亡き後のアップルは、業績や株価は大きく成長している一方で、イノベーションという観点からは持続的なものにとどまっています。もはやかつてのように破壊的なイノベーションを起こすのは困難なのではないかという指摘もあります。それに対して私は、iPodで音楽市場を破壊したアップルが、今度はアップルウォッチでヘルスケア市場を破壊するのではないかと予測しています。

先に述べた通り、アップルウォッチはシリーズ4からECG(心電図)を搭載し、事実上、「医療機器」と呼べる水準にまでヘルスケア管理機能を進化させています。このシリーズからはハードウエア構造が新たな段階に突入し、健康管理、医療管理のウエアラブル機器としての性格を強めています。実際にアップルは米国FDA(アメリカ合衆国保健福祉省配下の政府機関。食品・医薬品局)から限定的な医療機器としての認可も取得しています。

具体的に説明しましょう。iPhoneをお使いの方で、「ヘルスケア」という標準搭載のアプリをお使いの方も少なくないでしょう。通常であれば、「歩数」「エクササイズ時間」等が表示されるものですが、アップルウォッチとの併用により、「心拍数」「心拍変動」等が表示され、異常値が計測されるとリアルタイムでメッセージが送られてくるようになっています。まさに「健康管理」から「医療管理」へと進化してきているのです。そして、この心電図機能は、アップルのヘルスケア戦略の1つの機能にすぎません。

「信用力に優れたアップル」(画像=『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』より)

ヘルスケア戦略を支える「ヘルスキット」

図表3は、現在公開されている情報から、アップルのヘルスケア戦略を将来展開されるであろうレイヤー構造としてまとめたものです。

アップルのヘルスケア戦略を予測(画像=『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』より)

レイヤー構造の底辺でインフラとしてアップルのヘルスケア戦略を支えていくのは、スマートヘルスケアのエコシステムとしてのHealthKit(ヘルスキット)です。ここには、アップルウォッチやiPhoneなどのアップル製品から取得された個人の医療・健康データのほか、将来的には病院のカルテ情報などが蓄えられていくことが想定されています。利用者はすでに公開されている健康管理アプリ「ヘルスケア」で自分のデータをチェックできるほか、将来的には医療機関との間でのやりとりにも使われることになるのです。

アップルはこのエコシステムを自社製品のみならず、多くの企業が展開するヘルスケア関連のIoT機器製品群にもオープンプラットフォームとして公開していくのではないかと考えられます。今後、アップルウォッチやiPhoneは、スマートヘルスケアのプラットフォームとしても成長し、そこではさまざまなヘルスケア関連の商品・サービス・コンテンツが展開されるでしょう。