「自分らしいライフスタイル」という顧客価値を提供

それぞれの製品の機能価値や情緒価値は、CMやコピーといったプロモーションからできるのではなく、属性から派生するものであるということが重要なポイントです。機能価値としてはCX(カスタマーエクスペリエンス)=CI(カスタマーインターフェイス)に優れていて使いやすいこと、情緒価値としては実際に使っていて「誇らしい、信頼できる」といった気持ちになることが指摘できると思います。

そして、最終的にiPhoneは、「自分らしいライフスタイルを過ごす」「自分のライフスタイルや気持ちに合った高品質のスマート機器を自分らしくスマートに使いこなしたい」というような顧客価値を提供していると表現できるでしょう。アップルがiPhoneに対して哲学・想い・こだわりを持っているように、自分の仕事やライフスタイルに哲学・想い・こだわりを持って過ごしていきたいと思っている人。それがアップルのターゲティングであり、ポジショニングでもあるのです。

「個人データの利活用をしない」という価値観

アップルが本書で取り上げている8社の中で際立っているのは、顧客のプライバシーを重視し、個人データの利活用をしないことを明言していることです。「IoT×ビッグデータ×AI」時代において、消費者から集積したビッグデータの利活用を行わないことはAI戦略にも大きな影響を与えます。実際に「アップルはAIにおいて出遅れている」とはよく指摘されることです。

「出遅れているから言い訳のために個人データの利活用は行わないと述べているだけ」という批判もありますが、私は、アップルのプライバシー重視のスタンスは「その人らしくあってほしい」という同社の使命感や価値観からきているのではないかと分析しています。

確かに、アマゾンからは、協調フィルタリングというAIのアルゴリズムによって自分に興味のある商品を推奨するメールが届いてくる一方、アップルは消費者に対して一律に商品・サービス紹介のメールを送ってくるので、センスがないと思うこともしばしばです。しかし、自分の個人データがさまざまな場面でテクノロジー企業に取得されていると体感する場面が増えてきた中、アップルの姿勢は今後、再評価されるだろうと予測しています。