――値段の差は何?

「国産K社のワンピースもね、一流です。でもS社は“超超一流”なんですよ。不思議なくらい持ちが本当にいい。じゃあ、S社でやった場合の見積書を出します」

――最安値の見積書は?

「全然いいですよ、もちろんです! 銀歯もね、実は悪くないですよ」

歯科医は、その場で手早く2つの見積書を作り上げた。インプラント2本で、S社は約80万円、国産K社で約35万円とある。

僕が手術する人はアタリです!

この格安クリニックは、ホームページで「インプラント1本7万円~」と宣伝していたので、国産K社でも2本で14万円のはずだ。しかし、見積書には、上部構造(人工歯):8万3000円×2本分、静脈内鎮静法(麻酔):5万2000円が上乗せされ、合計35万8000円となっていた。

本稿は『やってはいけない歯科治療』(小学館)を一部抜粋、再編集したもの。

しかも、約8万円の上部構造は「銀歯」の料金。原価は1万円以下なので、「格安」と謳いながら、実はボロ儲けしているのだ。早速、歯科医は翌週に抜歯することを提案してきた。そして腕利きの自分が手術を担当すると、自信たっぷりに大見得を切った。

「僕がグループで一番手術をやっています。3年間で2000症例を超えています、余裕で。正直、僕が手術する人は“アタリ”です。自分で言うのもなんですけど」

インプラントで重要なのは、症例数よりも「手術の質」と「長期的な経過」だ。症例数が多いのは、安易に歯を抜いている、という見方もある。3年間で2000例の手術件数も、非現実的な数字である。大手インプラント・クリニックに勤務していた歯科医によると、年間300症例が限界だという。手術件数は第三者に検証できないので、ホームページに“盛った”数字を載せるクリニックもある。

気になったのは、格安インプラントの歯科医が、リスクや手術後の定期的なメンテナンスの必要性について、何も説明しなかったことだ。

「十分な情報提供を受けて、理解したうえで治療に同意を得る」=インフォームド・コンセントは、現代医療の常識。トラブルが起きたとき、裁判で負ける要因になるので、格安クリニックであっても、リスク説明は外せないはずだ。

考えられるのは、「まず先に抜歯をしてから、インプラントのネガティブな情報を伝える」というシナリオである。こうすると、インプラントのリスクを知ったときには、もう患者は後戻りできない。

2度目に訪れたとき、格安クリニックの待合室には、多くの患者がいたが、私には罠にかかった獲物に見えた。

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(写真=iStock.com)