とにかく、インプラント一択

問診票の記載を済ませると、CTとX線の撮影のため、4階に行くように指示される。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Lorado)

急勾配の階段を上る途中、3階で思わぬ光景を目にした。ドアを開けっ放しにして、4人のスタッフがインプラントの手術を行っていたのだ。私の位置から、2メートルほどしか離れていない。感染リスクなど、考えていないのだろう。あっけにとられて見ていると、私に気づいたスタッフの1人と目が合った――。

乱立する格安インプラント・クリニックには、共通のビジネスモデルがある。「低価格」「豊富な症例数」「短期間の治療」を強調した派手な広告を打つ。そして、「無料のCT撮影とカウンセリング」で患者を誘い込むのだ。

実は、あるクリニックで私は歯根の先端に膿が溜まる“根尖病変”と診断された。担当した歯科医は「早めに抜歯してインプラントにするしかない」と言う。そこで友人の歯科医に相談してみると、意外な答えが返ってきた。

「根尖病変は“根管治療”で治る場合があるんだ。いきなり抜歯するなんて、ちょっと変だな」

歯を残す治療法があるなら、患者に伝えるべきだろう。それなのに、インプラント一択しか提示しない歯科医は、高い治療費を目的にしていると疑われても仕方がない。

CTとX線の撮影から3日後、カウンセリングを受けるため、格安クリニックを再び訪問した。

歯科医になって10年目という男が、プリントアウトしたX線画像を見せながら診断を告げる。

「検討してみたんですが、やはりこの歯はね、抜かなきゃいけないと思うんですねえ――。隣のこれも厳しいんじゃないかなぁ。弱った歯をインプラントの横に置くというのもよくないんで」

――2本とも抜歯?

「まあ、頑張って残したとしても、将来性があんまりない。だったら1度にインプラントをやったほうが患者さんも楽だと思います」

根管治療のことは一言も触れない。何も知らない患者なら、抜歯してインプラント以外の選択肢は存在しないと思うはずだ。軽い調子で、歯科医は言葉を続けた。

「インプラントの会社は300社くらいあるんですけど、S社が一番いい。“王様”って言われている。何がいいかというと、長期安定性。だから僕らは第一選択です。ただ欠点は値段が高い。でも今回は奥歯のインプラントなので、S社でやりたい」

――S社は、どれくらい持つ?

「S社なら10年で99%持ちます、余裕で! 一生持つ可能性もあります、絶対とは言い切れないけど」

――最安値のタイプは?

「日本のK社のワンピース・タイプね。これでも、できますよ。ただね、15万円(1本)というのは銀歯の値段。白くしたいなら20万円です」