欧米の大学に水をあけられているのは、研究だけではない
欧米の大学に水をあけられているのは、研究だけではない。学生への教育の分野でも大きな差があると前出の寺田氏は断言する。
「私は大学院からオーストラリア国立大学で学びましたが、在学中に論文を書くための指導を徹底して受けられました。年間論文のノルマが15本、これを一度書いて終わりではなく、提出と訂正を繰り返し、完成に近づけます。専門の教員から、特に論理の接続が甘い箇所、英語の文法の誤りを徹底的に直されました。マンツーマンでアドバイスをもらっては書き直すという作業を締め切りギリギリまで繰り返すことで、論文執筆に必要な論理性を学ぶことができました」
国際金融の分野で一橋大学、東京大学の教授を経て、現在はコロンビア大学(16位)の教授として活躍する伊藤隆敏氏も次のように語る。
「アメリカでは一流の教授による数百人規模の大講義とは別に、約30人に分けられた少人数クラスがあります。このクラスごとに、大学院生のティーチング・アシスタントが付き、授業の補習や宿題の手ほどきをする仕組みがあり、基礎力を一定のレベルまで引き上げてくれます。こうした環境で過ごす4年間で得るものは、非常に大きいといえるでしょう」
東大の約11倍 コロンビア大学費約611万円の「コスパ」
こうした環境を支えているのは、潤沢な資金だ。英米のトップ大学は数兆円規模の基金を持っている。
「金融の専門家を雇い、運用だけで毎年数千億円もの利益を得ています。この利益の一部が高度な実験設備や優れた研究者の採用、経済的に恵まれない学生への奨学金などに充てられています」(伊藤氏)
一般的にアメリカやイギリスの学費は高額だ。東大の授業料は年額で53万5800円。これに対し、例えばコロンビア大学は約611万円で東大の約11倍もかかる。
「学費が高額とはいえ、奨学金が充実しているため、富裕層しか進学できないということはありません。例えば、ハーバード大学(6位)では、世帯年収6万5000ドル以下であれば、学費はかかりません。その代わり卒業生が稼ぎ、寄付をしてくれる。だから大学も学生を大事にするという好循環が生まれています」と伊藤氏は語る。
潤沢な資金とともに、アメリカやイギリスの大学の研究・教育を支えているのが、学生の多様性だ。
「学生の多様性は日本ではあまり重視されていませんが、研究の現場では多様な見方の人が集まっていることで新たな視点が開けることが多いため、非常に重要な要素です。文化も育った環境も、受けた教育も異なる人々が世界各国から集まることで、物事を多角的に捉えられるようになります。また、多様性のある環境では、文化的背景や価値観が異なる相手に対し、ゼロから自分の意見を根拠立てて説明しないとわかってもらえないので、自然と思考力、論理力が鍛えられます」(大栗氏)