「誰でも産める」と誤解されては困る

聖マリアンナ医科大学の鈴木直教授(撮影=プレジデントオンライン編集部)

私はがんと生殖医療に関してこれまでたくさんの取材を受けてきました。しかし残念なことにあるテレビ番組では、「がんになっても子供はできる」といった、“無責任な希望”を持たせる取り上げ方をされてしまいました。

繰り返しになりますが、がん患者さんが最優先すべきは妊孕性温存の治療ではなく、原疾患であるがん治療です。私もがんの医者として、患者の命を最優先します。それを、「誰でも産める」などと報じる記事や番組のせいで誤解されては困るのです。

私たち婦人科腫瘍医は、赤ちゃんが欲しい女性の望みをもっとも叶えてあげられない医者です。重い子宮筋肉種が見つかった14歳の女の子に、「子宮を取らなくちゃいけないから、将来お母さんになれないんだ」と伝えたこともあります。新婚旅行から帰ってきた妊婦さんに子宮頸がんが見つかって、中にいる赤ちゃんごと子宮を摘出せざるをえなかったこともあります。

非常にやるせないけれど、その気持ちを受け止めて一緒に闘うこと、そして正しい情報を広めていくことが私の役目。女優のアンジェリーナ・ジョリーさんは、乳がんと卵巣がんの予防的な手術を受けた際に、「Knowledge is power」(知識は力なり)と語りました。皆さんには、知識の大切さをぜひ心に留めておいていただきたいです。

鈴木直(すずき・なお)
聖マリアンナ医科大学 産婦人科学 教授
1990年慶應義塾大学医学部卒業、慶應義塾大学医学部産婦人科入局。1993年慶應義塾大学大学院(医学研究科外科系専攻)入学(指導:野澤志朗教授)。1996年~1998年9月米国カリフォルニア州バーナム研究所留学。1997年慶應義塾大学大学院(医学研究科外科系専攻)博士課程修了。2000年慶應義塾大学助手(医学部産婦人科学)、同産婦人科診療医長を兼ねる。2005年聖マリアンナ医科大学講師。2009年聖マリアンナ医科大学准教授。2011年聖マリアンナ医科大学教授(婦人科部長)。2012年聖マリアンナ医科大学教授(産婦人科学講座代表)。
(聞き手・構成=小泉なつみ 写真=iStock.com)
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