「日中眠くなる」「朝早く目が覚める」。春にはそんな悩みがよく聞かれる。精神科医で早稲田大学准教授の西多昌規氏は「春は体内時計が昼の長さにまだ慣れていない。年度の切り替わりによる心身の不調、花粉症の鼻詰まりなど、睡眠の質を下げる要因も多い」という。医師が教える「睡眠の5つのコツ」とは――。

季節の変わり目には睡眠の悩みが増える

3月に入って日の光もまぶしくなり、暖かい日も増えてきました。就職、進学から異動、転職など、新生活を控えている人も多くなる忙しい季節です。

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春は、日中にウトウトと眠くなるイメージがあります。夏目漱石は、小説『草枕』のなかで、「春は眠くなる。猫は鼠を捕る事を忘れ、人間は借金のある事を忘れる」と書いています。

「日中どうしても眠くなる」「朝早く目が覚める」「すっきり起きられない」など、季節の変わり目には睡眠の悩みが増える印象があります。秋は「ぐっすり寝た気がしない」という相談が多い一方で、春は日中の眠気や朝早く目覚めてしまうという悩みが多い印象があります。漱石も感じていた春の眠気ですが、日中に眠くなるメカニズムが、人間には備わっているのでしょうか。

春になると眠気が強くなるのは、科学的にも確かにあることだとわたしは考えます。理由は一つに絞られるものではなく、体内時計といった生物的要因から、新生活に向けた緊張など心理的要因がミックスしていると考えられます。

睡眠時間は「一年間同じ」ではない

わたしたちの睡眠時間は、一年通じて一定ではありません。日の長い夏には睡眠時間は短くなり、夜の長い冬には長くなります。

春は、夏至のころほど昼の時間は長くありません。ただ、寝室の中に光が差し込む時刻は、冬の頃と比べて徐々に早くなってきるのを実感します。明け方にまだ眠っているようでも、人間の脳は網膜を通じて日の光を感知し、覚醒を始めるのです。

睡眠時間は、春よりも夏の方が短くなります。しかし、眠気と言えば、夏よりも春という方が多いでしょう。温度や湿度などの環境が、猛暑の夏と比べて穏やかな春のほうがウトウトしやすいのはもちろん、冬の長い夜に慣れていた体内時計が、長くなりつつある昼にまだ慣れてきていないのが理由です。5月の連休ごろになれば、体内時計は昼の長い一日に慣れてしまうのです。