掲示板のみで発表をするのは「学校の宣伝のため」

5校の合格発表を見て、この5校はなぜ掲示板のみの発表にこだわっているのか、と思った。この数年で、ウェブと掲示板の両方で合格発表する学校が増えているからだ。

確かに、2月の寒空の下、掲示板で受験番号を見つけた瞬間の感動はひとしおに違いない。だが、そこには不合格者もいる。そのことを思うと、掲示板発表は残酷だ。親はともかく、小学6年生の子供にはつらいのではないか。

各校にはメディアや大手塾のカメラマンが殺到した

なぜ掲示板の前に親子を集めるのか。桜蔭に問い合わせたところ、「試験は2月1日の1回のみで、合格発表日に、合格者の皆さんに合格証や入学手続きの各種書類も直接お渡ししています。また、その場で制服の採寸をすることも可能です」(教務課)との回答だった。とはいえ、ウェブでチェックした合格者だけ学校にいけばいいだけである。

私立中学の合格発表では、ウェブを使うこと主流になりつつあり、いまや掲示板に貼り出すほうが珍しいという。ある進学塾の代表は「合格番号を貼りだすことで、メディアを集め、学校の宣伝につなげたいという狙いがあるのかもしれない」といぶかる。

「合格者の動画」は大手塾の新規生徒募集のPRに使われる

今回の取材では「掲示板発表」が商業利用されていることもわかった。筑駒の発表の際、ある大手塾が、合格した生徒をつかまえて「合格した瞬間の動画をとりたいから、初めて見た感じで演じて!」と頼んでいたのを目撃した。この映像はいったい誰のためのものだろう。少なくとも合格した家族のためのものではない。

掲示板発表がなくなったら一番困るのは大手の塾だ。この映像が、この新規塾生の入塾説明会で編集されて使われる。そのため、例年、説明会で「感動ビデオを見て涙するお母さん続出」となるのだ。それも、私が目撃したような「ヤラセ映像」を見て、その気になる可能性もある。中学受験のための平均的な塾費用は300万円。子供が勉強をやる気になればラッキーだが、そうでなかったら金をドブに捨てることになる。

塾選びは難しい。どんな基準で選べばいいかわからないという人は多い。となると、塾選びの決め手となりがちなのは「数字」だ。受験が終わった2月半ば以降、大手塾がCMや広告、ウェブページで「開成合格者100人」などと打ち出す人数を見て「ここはいい塾だ」と判断してしまうことがある。

そうやって説明会に行けば、塾が合格発表の場にカメラマンを投入して作り込んだ「合格感動ストーリー動画」を見ることになる。そしてほとんどの親はメロメロになる。これは危ない。塾選びは、塾と子供の相性や教育投資のコストパフォーマンスを熟考した上で行ってほしい。

(撮影=末木佐知)
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