「サイズがぴったりだから良い」ではない

取材に応じてくれた森雄一郎社長(撮影=竹内謙礼)

その点に関して森雄一郎社長に聞いたところ「うちはオーダースーツの企業というよりも、テックカンパニーの性質のほうが強いですからね」と答えてくれた。店舗のスタッフもネットに熟知しており、最近も店舗スタッフが勤怠管理のシステムを自作して、社内チャットで共有してくれたという。このエピソードからも服を販売することしかできないアパレル店のスタッフとは、ネットに対するスキルのレベルが大きく違うことが理解できる。

森社長自身も、もともとはIT企業の出身。ネット販促のうまさが際立つのも納得がいく。しかし、だからといって森社長にネット販促を優先するつもりは毛頭ない。オーダースーツの素晴らしさを多くの人に知ってもらいたいという思いで起業したこともあって、そこにITと実店舗の垣根をあえて作ってはいない。スタッフに対して実店舗とネットを分け隔てなく教育しているのもファブリック・トウキョウの特徴と言える。

「オーダースーツはサイズがピッタリだから良いというものではないんです。ゆったりしたのが好きだったり、細いのが好きだったり、趣味嗜好やライフスタイルによってサイズだけでは分からないところがたくさんある。そういう個人の思いを汲み取るには、直接会って、お客様と話をする必要があるんです」

実店舗でのヒアリング内容をデータ化

ファブリック・トウキョウには“Fit Your Life”というコンセプトがある。洋服には体に合ったサイズ以外にも、生活にあったサイズが大切だという意味が込められるという。

ネットから実店舗に来店した顧客には、サイズの測定はもちろん、日常的なスーツの使い方からライフスタイルまで細かいヒアリングを心がける。その後、サイズはすべてデータとして店舗に保存。次回からは実店舗に足を運ばなくても、ネットからオーダースーツを注文することが可能になる。

「もともと私自身がオーダースーツのお店は敷居が高くて入りづらいと思っていたんです。それを払拭するために、ネットを通じて『このお店に行ってみたい』と思ってもらえるような情報発信に力を入れるようになりました。ファブリック・トウキョウはネットから実店舗への集客が95%を占めていて、リピート率も一般的なアパレル業界の企業に比べれば2倍ほどあります。ネットを通じてお店に入りやすくなり、リピートしやすい店作りができれば、もっとオーダースーツが身近なものになっていくと思っています」

森社長の言葉を聞いて、ネットの消費トレンドが大きく変わりつつあることを実感する。以前は実店舗をショールームのように使い、その後、ネットで安い商品を探して購入する“ショールーミング”が頻繁に行われていた。しかし、最近はネットで店舗や商品の情報を集めて、その後、実店舗に足を運ぶショールーミングとは真逆の“WEBルーミング”という消費行動が生まれつつある。ファブリック・トウキョウはその最前線にいる企業と言える。